第18回「振り返り編① 三人の場面!」~創作ノート~TARRYTOWNが上演されるまで
こんにちは!ミュージカル「TARRYTOWN」の翻訳・演出の中原和樹です。
今回は今までと少し趣向を変えまして、振り返り編と題して、創作の裏話を少し載せつつ、「TARRYTOWN」が上演された際の本番写真をご紹介していこうと思います!
まず一発目は・・・
いきなりの空舞台(出演者が誰もいない状態の舞台のこと)写真です。笑
「TARRYTOWN」の上演はBlackAという場所で行われたのですが、ここはカフェとしての営業もしていたことがあるスペースです。
劇場空間というよりは展示空間のようなイメージが大きいところなのですが、ここでこの作品の世界をどう表していくか悩みに悩んだ結果として、
このミニマムな、シンプルな舞台美術(大道具)となりました。
このカタチに至るまでにボツになったアイディアもいくつかあります。3つの台に分かれたものではなく、一つの大きな台に三人がいる状態のアイディアもありました。
最終的にこのプランで稽古した際に、これはいけそうだ!と感じたことを覚えています。
狭い演技エリアだからこそ、台の前に出てくる・奥に戻る・座る・立つなどのシンプルな動き全てに意味が大きく乗っかってきます。
また、この舞台美術のプランでの上演に伴ってとった大きな選択として、各出演者が話すとき(つまり役柄の人物が他の人物に話しかける際)に、特別な場合を除きずっと前に向かって話すということがあります。
観客との距離が近いからこそ、面白い効果をもたらせたアイディアであると思っています。
次の写真は三人の場面その1「Dinner For Three」という曲の中の一瞬です。
これは曲のタイトルの通り、三人で夕食を取っている場面です。
スリーピーホロウ高校に赴任してきたイカボッドが、校長補佐のカトリーナの自宅へと招かれます。そこにはカトリーナの夫であるブロムもいて、三人で夕食をとることになる、というところです。
三人とも良い表情をしていますね。笑
そしてそれぞれの体勢、身体の使い方も特徴的で、それだけで人物が見えてくるような感じがします。
「TARRYTOWN」の劇中で初めて三人が揃うというところ(プロローグの曲は三人で歌いますが、物語として三人が揃うというより、作品のスタートとしての意味合いが強いので)で、楽曲もそれぞれの主張やキャラクターが分かりやすく描かれているために、見ていても聞いていても楽しいシーンです。
演出の方向性として、料理などは本物やイミテーションも出さずに、最小限の物で食事の場面が出来上がりました。
グラスは本物で、ワインやお酒なども物語中で意味合いを持つアイテムとして本物の瓶を使用しています。
とはいえ、当初は料理が無い分あまり夕食感が出なかったのですが、出演者のひとり、ブロム役の山野君が「ナプキン着用をしてはどうか」という案を出してくれ、夕食感が一気に増した上に、このミニマムな上演形態のルール付け・筋道を強固にしてくれました。感謝です。
この楽曲は三人の会話のやりとりが歌となっている分、歌が入り乱れるといいいますか、普通に歌う分にも難しく(その分楽しいのですが)神経を使う曲です。
その上で食事のお芝居をしつつ、他の役柄の歌(言葉)を聞いて反応しつつ、台本も見つつ・・・(朗読劇のように台本を持つ上演形態でしたので)
というマルチタスク満載なシーンとなりました。
訳詞としても、Dinner For Threeというフレーズは何度も出てくるため、そのフレーズに何を当てはめるかに苦心した記憶があります。
もともとの歌詞にはないのですが、最終的には「パーティ」という単語を思いつき、それを当てはめました。
カトリーナがイカボッドを招待した興奮感や、友達が全然いないイカボッドが感じるであろう「招かれた夕食の特別感」を考え、これはただの夕食ではなく夕食パーティとしての意味合いがある、と判断したことが大きな理由です。そして何より歌のフレーズとして、伸ばすフレーズに「夕食」を「ゆーーうーーしょーーくーー」と当てはめるよりも、「パーーーーティーーーー」と当てはめた方が気持ち良いと思ったからです。
お次は・・・
こちらも同じく出演者三人の場面ですが、さきほどとはうって変わって、実はこのカトリーナとブロムはイカボッドの頭の中の二人、という設定です。
「The Man In The Middle」という曲中のシーンなのですが、イカボッドはブロムへの想いとカトリーナへの想いとの狭間で揺れ動きます。その結果、イカボッドの妄想の中で、二人からイカボッドへ甘い言葉たちが歌われるという展開となっています。
楽曲の曲調やジャンルが多彩な「TARRYTOWN」ですが、この「The Man In The Middle」という曲は、これこそミュージカル!というような曲調です。
スウィングジャズの形式で、この曲調だけでミュージカル好きにはたまらない、往年の古き良き時代を髣髴とさせます。
そしてタップダンスやラインダンスが想起されるような箇所もしっかりとあって、もうたまりません。笑
このミュージカルの一つの特徴でもある、三人の歌やメロディが綺麗に組み合わさっていく箇所もしっかりとあります。その部分でのブロムとカトリーナの歌が喋り言葉やラップに近く、しかしただ話すのではなく確固としたリズムがあるパートになっています。タップダンスのリズムに言葉がはまっている、というとイメージしやすいかもしれませんが、この部分の訳詞のはめ方にもこだわったり、稽古でその言葉がうまくいくか、楽しみながら試行錯誤したシーンでもあります。
三つの台のルールを越えて、ブロムとカトリーナがイカボッドの台に乗る、という演出もついていて、演劇的に空間が変容するような面白さも目指した場面です。
何より「TARRYTOWN」の中でこんなにもハッピーな時間はなかなかないので、、、笑
そういった意味でも思い出深いシーンです。
いかがでしたでしょうか。
これからも創作ノートを続けつつ、作品の振り返りや写真のご紹介、裏話なども書いていこうと思います。楽しみにしていただけたら嬉しいです。
今回もお読みいただきありがとうございました。
中原和樹
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