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私が管理本部長だ! vol.6

社内恋愛はほどほどに

「社内恋愛に関してどう思いますか?」

とよく聞かれる。

一説には『社内恋愛が多い会社は伸びる』なんてことも言われている。

女性がパートナーを選ぶ際には安定や将来性を求める場合が多いことから、社内恋愛が多い会社は女性からは『安定していて将来性がある会社』と見られていて、事実そういった会社では社内恋愛が多いとのことだ。

私は思う。

社内だろうが社外だろうが、恋愛は恋愛だ。そこには良いも悪いもない。変に『会社』というものを意識に絡ませるからややこしくなる。

結局のところ、社内恋愛をするかどうかよりも、『どんな恋愛をするか』ということが大切なのではないだろうか。

*****

「ウチで社員を続けるのであれば、坂下くんとは別れなさい」

私は、うつむき加減で紅茶をすする神野に対してそう伝えた。

ここ3ヵ月で、神野は病的な勢いで痩せた。
体調不良による急な欠勤が多くなり、病院からは極度のストレスから来る拒食症と不眠症が原因だとされた。

もともとハツラツな印象が強かった彼女だっただけに、その変化は異常としか言いようがなかった。

*****

坂下は東京の京急エリアで統括を務める、いわゆる『出来る男』だった。仕事は正確で速く回りの面倒見も良いことから、上司部下問わずに各所から厚い信頼を得ていた。
ただ唯一の欠点は、酒癖が悪く、飲み会の席などでは酔っぱらうと女性に甘えようとし始めるので、目に余る行為に転じる前にタクシーに押し込むのはいつも私の役目だった。

神野は、9ヶ月前にアルバイトから社員になった学芸大学店のムードメーカーだ。「私はもっとたくさん接客してもっとたくさん売上に関わりたいんです!」と声高に主張して、その熱意に押される形で社員登用を決めた。
誰よりも多くの時間を仕事に費やしているように見えた彼女はすぐに社内に打ち解け、所属エリア以外の集まりにも頻繁に参加していた。

そんな二人の交際を知ったのは半年くらい前のことだ。

会社の忘年会で宴もたけなわとなった時、坂下が神野の膝枕でムニャムニャ言っているのを発見した。
そろそろタクシーに突っ込むかなと思った私が「坂下くん」と声をかけると、

「あ、大丈夫です。この人は私が連れて帰りますから」

と、神野が私の言葉を遮った。

よく見ると、神野はとても優しく微笑みながら、自分の膝の上で眠っている坂下の頭をなでていた。

すると、そんな様子を見ていた竹原がスッと私のそばに来て、「高良川さん、この二人、最近付き合い始めたんですよ」と言った。

*****

3ヵ月前、坂下はウチを退社した。

勤務歴も長く会社の中心とも言える坂下の退社は、とても突然なタイミングでみんなを驚かせた。役員の誰かとの意見の食い違いから来る関係不和が原因とのことだったが、詳しくは誰も知らなかった。

そして、かねてから誘われていたと言う同業他社に結構な好条件で入社したとのことだった。

*****

その頃から坂下は荒れるようになったそうだ。

新しい職場では、今まで通りのやり方では思うようにいかないことが多かったらしい。もともと人に相談することを苦手としていた性格も悪い方向に転がってしまったのかもしれない。
最初から好条件で入ってしまった職場に彼の味方は少なく、表面的にだけ良い返事をするかりそめの部下たちにイライラをつのらせるようになっていった。

すでに同棲を始めていた二人だったので、夜はいつも神野が坂下の愚痴を聞く時間になった。そして坂下は、酒が入ると今の会社とウチの会社の愚痴ばかりを言うようになってしまった。

毎日自分の会社の悪口を言われることがつらかった神野は、「あんまり言い過ぎないで・・・」と伝えることもあったと言う。だがそう言うと坂下は、「お前はバカだから何にもわかってないんだ!」と朝まで延々の神野の悪いところを言い連ねていったとのことだった。

彼が、何が原因でそうなっていったのか、私にすべてはわからない。

ただ、一緒に住んでいる彼女の仕事に悪影響を及ぼしていることは確かだった。

*****

私は竹原から相談を受けた。

「高良川さん・・・、神野の件、何とかなりませんか・・」

神野の連続する急な欠勤で、シフト担当の竹原は心底困っているようだった。
神野から詳しい状況を聞いた竹原ではあったが、その原因が自分の先輩にあたる坂下との恋愛だったため、言うべきことも言いづらくなってしまったとのことだった。

「わかりました。とにかく、今坂下くんはウチの社員ではありませんが、神野さんはウチの社員です。彼女には私から、会社として必要なことを伝えてきます」

そうして、私と彼女の面談が始まったのだ。

*****

「ウチで社員を続けるのであれば、坂下くんとは別れなさい」

色んな話をした結果、それが私の出した彼女に対する答えだった。

長い沈黙が流れた。

私は彼女の答えを待った。

彼女はソワソワするでもなく、ただジッと目の前の紅茶を見ていた。

そして、

「決めました」

彼女は顔を上げ、しっかりと私の目を見てこう言った。

「今月いっぱいで会社を辞めます。高良川さんの言う通り、これ以上会社のみんなに迷惑をかけられません」

私は少しだけ時間を置き、

「本当にそれで大丈夫ですか?」

と聞いた。

「はい。今彼は私がいないとダメなんです。何か、ほっとけないんですよね。。すみません。。。そして、ありがとうございました!」

そういった時の彼女の笑顔は、出会ったばかりの頃と同じ、ハツラツとしたものだった。


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