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私が管理本部長だ! vol.12

兵どもが夢の跡 前編の1

社員旅行、社員旅行、社員旅行。
嫌な響きだ。

社員旅行には善も悪もない。
ひたすらカオスだ。

社員旅行。

毎年。そう、毎年毎年、私はどうせカオスになってしまうことを知っていながらも念入りな準備をし、そのカオスを収めるために参加しているのだ。

*****

「やっぱり舟盛りは必要だろう!」

「ですね!あとは料理長が目の前でさばいてくれれば完璧ですよね!」

自信満々にアイディアを出す社長に、専務がひと声上乗せした。

我が社には年に一度の社員旅行がある。そしてその内容は、「社員旅行は社員たちの慰労を兼ねているからな!出来る限りは俺たちで準備するのが筋だろう!」と言う社長の考えから、毎年役員会で決められる。

だが、残念ながらいつも私は幹事を任せられてしまう。
しかも、社長から直々に任命されるので断る余地も無い。

今年の社員旅行は年明けに行くことになった。
場所は、社長の「うまい日本酒が飲みたい!」という一言で、越後湯沢に決まった。

越後湯沢駅にある『ぽんしゅ館』では、500円で日本酒の飲み比べが出来る。
「うまい酒を現地で見つけるのが醍醐味だな!」
と、今回の行先に、社長はノリノリでご機嫌のようだった。

「越後湯沢と言えば温泉ですから、せっかくなら風呂自体も色んな種類を楽しみたいですよね」

「ですね。あとはスキーやスノボも出来るようにしておけば、若い従業員たちも喜んでくれるんじゃないですかね?」

阿部取締役も小島常務も、より良い社員旅行にしようとしているのがよくわかる。

「あと、現地でどんなイレギュラーが起こるかもわからないから、とりあえず30万くらいは現金も用意しておきましょう」

そう、なかなか抜け目も無いのだ。

そうして2時間ほどの打ち合わせが終わり、「では高良川、後はお前に任せたぞ」と社長が言った。

毎回のことではあるが、ここまで念入りに打ち合わせをしているのに、なぜ当日はあんなことになってしまうのだろうか。。。

*****

「高良川っ!風呂行くぞ、風呂!」

ぽんしゅ館で3,000円も使ったほろ酔いの社長は、宿泊する旅館に到着するなりそう言った。時間はまだ13時をちょっと過ぎたくらいだった。

今回の社員旅行では若い社員たちの希望を叶え、夕方の宴会までは全員自由行動となった。

宴会は18時からなので、まだまだ時間がある。

旅館のロビーラウンジでは自然といくつかのグループに分かれ、みんな各々の過ごし方を相談しているようだった。

「そうですね。今が一番ゆっくり出来そうですね」

私は、社長と一緒に旅館に常設されている温泉に向かった。

「色んな種類の風呂が楽しみたい」と言う阿部取締役の希望もあったので、20種類以上の湯があるこの旅館を選んだ。
スーパー銭湯顔負けの湯の数はちょっとしたテーマパークのようで、いつも早風呂の私でも1時間以上楽しむことが出来た。

風呂を上がり一度部屋に戻った後、「俺は宴会までひと眠りする」と言う社長を残し、私は社員たちの様子を見に行くことにした。

*****

14時30分、ロビーラウンジで何やら話し込んでいる3人組を発見した。

「谷くん」

「ああ、高良川さん。まだ旅館にいらっしゃったんですね」

「はい、社長と温泉に入っていたんですよ」

「あー、なるほど。いつもの感じですね」

「ちなみに、みんなはどこに行ったのか知っていますか?私もどこかに合流しようかと思っているのですが」

そこで、谷のとなりにいた川島が口を開いた。

「えーっと、橋間さんを中心に10人くらいはスノボするってゲレンデに向かいました。阿部さんは温泉巡りをするからって7~8人くらい引き連れて外に出て行きましたね」

なるほど。

「専務は町の散策をするって言っていて、やることが決まらない人たちは結構そっちについて行ったみたいですよ。あとは・・」

川島の言葉が途切れたところで、向かい側にいた岩清水が思い出したように、

「あ!あとは竹原さんは北林さんとかを連れてスロットに行ったみたいですよ」

・・・は?

「何も旅行先でスロットすることもないと思うんですけどね・・・」

私もそう思う。

「なるほど、ありがとう。で、ちなみに君たちはここで何をしているんですか?」

三人は少し首をすぼめて目を見合わせた。

「実は僕もスキーかスノボをしようかと思っていたんですが、やったこと無かったんでどっちにしようか迷ってるうちに・・・」

「私たちもスキーかスノボをしようかと思っていたんですが、旅館のおみやげ屋さんの試食コーナーにハマっていたら・・・」

ああ、なるほど。

「置いてかれちゃいまして」

三人は声を揃えてそう言った。

「で、じゃあ後追いで向かおうかとも思っていたのですが、僕と岩清水さんが初心者でして・・」

「そうなんです。私はまあまあ普通に滑れるんで大丈夫なんですが、私一人で二人の初心者はちょっと心配で・・。それに、この状況で私一人で向かうのも何かなって感じで・・・」

「そこで、行くか諦めるかで相談していたところだったんです」

なるほどなるほど。

「じゃあ、良かったら私と一緒に四人で行きましょうか?」

私もスキーなら少しだけ滑ることが出来る。

「ただ、スノボは滑れないのでスキー限定になってしまいます。それでも良ければですが・・・」

私のその言葉に呼応したように、川島はパッと明るい表情になった。

「それ、いいですね!じゃあみなさん、今日はスキーにしましょう!」

谷も岩清水も、それまですぼめていた首をシュッと伸ばして笑顔になった。

「じゃあ、岩ちゃんは私が教えてあげるね!谷さんは高良川さんにお願いしても良いですか?」

「はい、わかりました。では、早速レンタルしに行きましょうか」

そうして私は、この旅行で最後のバカンスに向かったのだった。


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