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私が管理本部長だ! vol.13
兵どもが夢の跡 前編の2
久しぶりのスキーだったからか、山から下りてきた後には体中がギシギシ言っていた。川島なんかはケロッとしていたが、今日初めてスキーをしたと言う谷と岩清水はかなりグッタリとしていた。
谷には「高良川さん厳しすぎますよ!」と言われたが、スキーは思い切って重心をかけることが出来ないとエッジが効かずに止まることが出来ないので、結構危ない思いをすることになる。
そのため、とくに腰が引けていた谷には、自ずと口調が厳しくなってしまったのだ。
それでもまあとにかく、「ハの字ハの字!」と言い続けて何とか全員自力で無事に山から下りてくることが出来たのだ。やはり安全第一。
久しぶりに体験したゲレンデの美しい銀世界に、私は大満足だった。
旅館に帰るバスの中では、大きく息を吐きながら「僕、もう二度とスキーはしません・・」と言う谷に対して、岩清水は、「私、「ハの字ハの字!」って耳にこびり付いちゃいました。絶対夢に出てきますよ~」と返していた。
そして川島は、そんな二人を見てケタケタと楽しそうに笑っていたのだった。
ふむ。今回の社員旅行は楽しめそうだ。
なんて思った私は、まだまだ甘かったことを数時間後に知ることになるのだが。。。
そうして旅館に戻ったのは17時を少し過ぎた頃だった。
*****
専務の部屋では、すでに宴会が始まっていた。
「おお!高良川くん、遅かったね!どうだ、君も飲みたまえ!」
専務以下15人ほどが、もう完全に出来上がっていた。
その部屋では各々が缶ビールや湯吞みを手にしていて、飲み会特有のザワザワした雰囲気になっていた。
「ほら!これを見たまえ!実は、この部屋のポットからはな・・」
専務は、部屋に備え付けの電気ポットからお湯らしきものを湯吞みに注ぎ、
「なんと!日本酒が出てくるんだよ!」
と言った。
その場がドッと盛り上がる。
湯吞みに注がれたのは確かに日本酒だった。電気ポットのすぐ横には、空の一升瓶が3本転がっていた。
そして、ビーフジャーキーやら鮭とばやらホタテの貝柱やらの酒のつまみがところ狭しと転がっていて、その半分以上がすでに食い散らかされていた。
「専務」
嫌な予感がした私は、念のために確認することにした。
「ん、どうした?」
「ここにある酒やつまみは・・」
「ああ、心配しなくていいよ!部屋のデリバリーメニューに書いてあるものしか頼んでないから、チェックアウトの時に私が支払っておくよ」
なるほど。
「わかりました。あと、もう30分ほどで夕食の準備が出来ます。場所は大宴会場ですので、時間になったらこの部屋のみなさんの誘導をお願いします」
私は専務にそう伝えて他の部屋に向かった。
*****
「高良川、俺、宴会不参加で良いか?」
社長がそう言った。
「いやな、、風呂から出てずっと寝ていたんだが、腹を出しっぱなしにしてしまったらしく、下痢が止まらん」
「それは仕方がないですね」と言いたいところだが、旅行の趣旨から考えると社長の場合にはそうはいかない。
「ダメです。とりあえず最初だけでも参加してください」
「ええ~!高良川、俺は体調不良なんだぞ!ちょっとはいたわれよ!」
「ダメです。今日は社員旅行の宴会なんですから、社長はいたわられる立場ではなく、社員をいたわる立場です」
「ん~・・」
「1時間くらいすればみんな酔っぱらってしまうと思いますから、せめてそれまでは頑張って参加してください」
数秒の沈黙の後、
「・・・わかった。そうしよう」
社長はあきらめたようにそう言い、恨めしそうな目で私を見た。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そして部屋を出ようとしている私の背中に、
「本当、お前って融通が効かないよなぁ」
と言う言葉が降りかかってきたが、私は聞こえなかったふりをして背中でドアを閉めたのだった。
*****
18時からの宴会には、社員全員が欠けることなく参加することになった。だが、専務を筆頭に半分以上の人間がすでに出来上がっていたため、最初から統制なんてものは無かった。
こんな時は、とりあえず大きな声を出せば一度まとまる。
「みなさん!昨年はお疲れ様でしたー!!」
このひと声に、みんなはほぼ反射的に「お疲れ様でしたー!」と呼応する。そうして出来た一瞬の間でしゃべってしまえば良い。
「今年も一緒に頑張って行きましょう!それではみなさん、グラスはありますか!」
各々がグラスを手に持ち、各所から「ありまーす」と声が上がる。
「では社長!乾杯の音頭をお願いします!」
・・・さて、ここからが本番だ。
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