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私が管理本部長だ! vol.10

さらば労働基準法 後編

橋間とのやりとりから3日ほど経った頃、阿部取締役から電話があった。

「高良川くん、橋間と結構やりあったんだって?」

ん?

「・・あの、いったい何のことでしょうか?」

本当に心当たりがないが、まさか。。

「そんな隠すほどのことでもないだろう?そりゃあ君は管理本部長と言う立場だから、一度決めたことを変えられるのは面白くないということくらい私にも理解出来るよ」

「・・もしかしたら、伊勢谷くんの件ですか?」

電話の向こう口から、やっぱりなと言わんばかりの「フフン」と鼻を鳴らす音がした。

*****

「やっぱり覚えているじゃないか。そう、その件だよ」

その件なのか。。

「橋間に泣きつかれてしまってなぁ。「最初は高良川さんに相談したんですが、法律のこととかよくわからないことばかり言われるし、伊勢谷は伊勢谷で最低限受けられる権利があるはずだとうるさいし・・・、阿部さんの裁量で何とかして貰えませんか?」てな感じだ。君がしっかりしていることは認めるが、あんまり回りを困らすなよ」

は?

「まあ、何だ。今回の件は私の裁量で伊勢谷くんの有給を8日分支給することにしたよ」

ほほう。

「もうそのことは橋間に指示を出して伊勢谷くんも納得したとのことだったので、これでめでたく円満退社ってところだな」

そうなったか。。

「阿部取締役、それは決定事項ですか?」

「ああ。さっき言った通りで、もうすでに進ませて終わった内容だ。決定済みだし、さらに言えば終了済みのことだから君に迷惑をかけることも無い。安心してくれ」

いや、迷惑だ。

阿部取締役なりに気を使ってくれたのはよくわかる。

だが、「何であの人はいいのに僕はダメなんですか!」なんて言葉を今まで何度聞いてきたことだろうか。優遇措置を出すのであれば、あくまでも実績に基づいた措置でないと、ごね得を良しとする従業員が増えてしまう。

そして、その尻ぬぐいほど不毛な時間は無いのだ。

「わかりました」

私はその一言だけを伝えて電話を切ることにした。

*****

後日、神奈川エリアの飲み会の席で、橋間が「俺が伊勢谷の有給を増やしてやったんだよ」と誇らしげに語っていたとのうわさを聞いた。

実際に突出した営業力を持っている橋間の言うことなだけに、回りの部下たちは「さすが橋間さんですね!」なんて褒めたたえていたそうだ。

これでめでたく『ごね得予備軍』の出来上がりってことだな。。

私は管理本部長。
労働基準法なんてくそくらえなのだ。


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