私が管理本部長だ! vol.2
経費削減依頼
「高良川くん、不必要な経費を削減してくれたまえ。君も知っての通り、我が社は営業に特化した会社だ。現場の人間では前向きな意識が強すぎて、散財に気が付かないこともあるだろう。任せたよ」
専務のありがたい言葉である。
週に一度のキャバクラとゴルフを止めればそれだけで年間200万以上の経費削減になるのだが、それは今言うべきタイミングではないのだろう。
「わかりました。最善を尽くします」
私はそう言って、一礼の後に専務室を後にした。
*****
私はまず、もっとも大きな費用となっている『人件費』から手を付けることにした。
昨年度は例年よりも20%ほど売上が高かったため、特に土日祝日には人手が足りない店舗が続出した。そのため、従業員の休日出勤や残業がグッと増えるという現象が起こった。
しかし、今年になって売上が落ち込んだ。例年の12%減となっていて、未だ上昇の兆しが見えない。
にも関わらず、なぜか休日出勤や残業の量が昨年度のままだった。
答えは現場にあるはずだ。
そう考えた私は、一週間かけてすべての店舗を極秘裏に調査した。そして、そこで私が見たものは、従業員同士の長い長いおしゃべりの数々だった。
暇ほど恐ろしいものはない。
昨年度はあれだけ元気よく働いていた従業員たちが、今は空き時間のほぼすべてをおしゃべりに費やしていたのだった。
*****
「今、現場の人員工数が多すぎます。まずは社員の休日出勤を止めましょう。それだけで年間300万程度の経費削減が見込めます」
私は、二ヵ月に一度参加している営業会議の場でそう提案した。
「んー、そこをすべて止めるのは難しいですよ。休日出勤は急遽決まる場合がほとんどだから、シフトに穴があくことを考えれば、それは必要経費です」
シフト作成を担当しているエリアマネージャーの一人、竹原がそう答えた。
「そうですか。。では、平日に一店舗一人ずつで構わないので、アルバイトを閉店一時間前に早上がりさせましょう。今は店舗の所属人数も多いので締め作業に支障はないはずです。これで、年間200万以上の経費削減が行えます。
本当はアルバイト全体の出勤日数を減らせば手っ取り早いのだが、アルバイトたちにも生活がある。あまり無理のないようにと考えての提案だった。
すると、神奈川店舗を統括している橋間がこう答えた。
「・・・高良川さん、非常に申し上げにくいのですが、先に一人で帰るのは寂しいものですよ。事務所勤務の方には理解しづらいかもしれませんが、私たち営業はチームとしてのモチベーションを大切にしています。先に一人だけ帰らせるなんて出来ませんよ」
・・・なるほど。
なるほどなるほど。
モチベーションアップの為に年間200万を使用すると言っていることに気が付いていないようだ。
ぜひ予算申請を上げて貰いたいものだ。
まあ、もうちょっと正確に言うと、君の浮気相手のあのアルバイトの子を先に帰らせると君のモチベーションがだだ下がりするってことなのかな。
まったく、モノは言いようだな。。
*****
結局、経費削減に関しては人件費以外のところで提案が欲しいと言うことになった。
あれから話も二転三転したが、結局、自分たちの配下スタッフに『人件費削減』とは伝えづらいらしく、まあ単純な話、言いにくいことはギリギリまで言いたくないってだけのことだった。
会社を出ると、もうすでに辺りは暗くなっていた。
「いやぁ、みなさん!軽く飲みにでも行きますかぁ!」
「お、いいね~」
「そういえば、前にみんなと行った串カツ屋が、新しい事業展開で近くにガールズバーを始めたらしいよ」
「へ~、じゃあ今日はそっちに行ってみるか!高良川さんも行きましょうよ!」
「すみません。せっかくのお誘いですが、今日は妻と約束があるんです。みなさんで楽しんできてください。今日もお疲れ様でした」
私はそう答えて、みんなの歩く方角から外れた。
「お疲れ様でしたー!!」
屈託のない笑顔で私に手を振る彼らを横目に、私は、気持ち足早に近くのスーパーマーケットに向かった。
*****
ここのスーパーでは、20時を過ぎるとほとんどのパンが50%OFFになる。さらには弁当やデザートも、また運が良ければ牛乳やヨーグルトなんかも30%~50%OFFになっていたりする。
「今日遅くなりそうなら、あのスーパーのお得物件、適当に買ってきて~。我が家も経費削減しなきゃだからね~」
妻は、私が会議の日の朝には必ずこう言うのだ。
私は20分ほど店内を練り歩き、厳選した商品をカートに山盛りにしてレジに向かった。
「2,940円になります」
今日はついていた。ほとんどの商品が50%OFFで見つけることが出来た。
そのため、およそ2,500円ほどの経費削減が出来たのだ。
*****
私がこのスーパーにこの時間に来られるのは週に一度程度だ。
ということは、月に4回×12ヶ月×2,500円となり、この行動を続けることで年間120,000円ほどの経費削減が見込めることになる。
私は管理本部長。
経費削減なんてお手のものなのだ。