ELLEGARDENがいなかった16年
大好きなバンドが、16年ぶりに新曲を出した。
16年というとちょうど自分の人生の半分だ。
そう考えると、ずいぶん不思議な感覚になる。
気持ちのいい休みの朝に、新曲を聴いた。
そうしたらいろんなことを思い出したので、ここに書いておこうと思う。
✱ ✱ ✱
初めて聴いたのは、高校生の時だった。
友達がおすすめの曲を集めたMD(なつかしい)をプレゼントしてくれて、その中に入っていた。
その友達は、自分と同じように男の子みたいな格好をしていて、髪型もいつもかっこよくしていて、
わたしは小学生の時も中学生の時も、そしてその高校生の時も、そういう友達が周りにいてくれたから、自分が異性の格好をしていることに特に違和感を抱くこともなく過ごしていたような気がする。
その子がくれたMDに入っていた曲はどれも好きだったけど、
その中で自分の中にストレートに届く曲があった。
それがELLEGARDENだった。
それから何度も何度も聴き続けた。
特に浪人した1年間は、ELLEGARDENの曲を聴かないと塾に向かうバスに乗れないくらい、手放せないものだった。
今はもうやらないけど、外を歩く時はいつでもイヤホンをつけて曲を流していた。
そんなELLEGARDENが、浪人中に活動休止を発表した。
MDを貸してくれた友達とは、ふたりして浪人したので大学生になったらライブに行こうねと励ましあっていた。
だから、授業中、解いた答案を先生に添削してもらいに行く途中に、その友達から活動休止を聞かされて大声をあげたことを今も覚えている。
ELLEGARDENの音楽が、遠くの方で鳴り響く。
その音がさらにさらに、遠ざかっていくような感覚だった。
毎日朝から晩まで勉強していた自分にとって、行ったこともない、新木場という地名のライブハウスで最後のライブが行われていたことも、遠い世界の話だった。
大学生になっても一向に活動再開は発表されなかった。
かわりに、
ボーカルの細美さんが、theHIATUS(ハイエイタス)というバンドを始めた。
わたしはELLEGARDENの穴を埋めるように、
音楽雑誌を読み漁った。
細美さんの言葉のひとつひとつをさらっては、
どんな心境で活動休止し、新しいバンドへと向かっていったのかを想像しつづけた。
ファーストアルバムは、何度聴いたかわからない。今も、このアルバムに入っている曲には大好きな曲ベスト3が入っている。
だけどハイエイタス最初のライブは、わたしは耳が明らかに聞こえなくなったタイミングと重なって行けなかった。
遺伝が原因なのはわかっていて、完全に聞こえなくなるところまでいくものではないんだろうというのはわかってはいたけど、もう音楽が聴けないのかもしれないと落ち込んだ。
結局、これ以上は落ちないだろうというところまでいったのを感じてからは、ガンガンライブに行った。
そうして初めてハイエイタスのライブに行けたのは、ELLEGARDENの活動休止を聞いてから3年が経った冬だった。
それからはもう、何度行ったかわからない。
どんなに仕事が忙しくても、ライブに駆けつけた。
そしてついに、待ち望んだELLEGARDENの復活の知らせが届いた。
活動休止から10年が経ったELLEGARDENが、
10年前のあの日、また帰ってくるからと約束した新木場スタジオコーストでライブをした。わたしは本当に運良く、ライブに行くことができた。
音楽が鳴り始め、夢にまで見たELLEGARDENのフラッグがステージ上に上がった時、わたしの記憶装置はぶっ飛んだみたいだ。夢みたいな光景だけがただただ残っている。あとダイブしてきたワンオクのTakaと鉢合わせたことぐらい。(びっくりして一瞬正気に戻った)
✱ ✱ ✱
わたしの中のELLEGARDENの記憶は、そこで止まっているけど、
新曲を聴いた時にわたしは、これまでのアンサーソングのようにも感じたし、活動休止していた時に本当は届けたかった音楽を鳴らしてるようにも聞こえた。
新しい音の中に、たしかにこれはELLEGARDENなんだと知らせる音が鳴っている。
細美さんは結局、theHIATUSと、monoeyesと、BRAHMANのトシローとのと、活動休止している間にどんどんいろんな人を巻き込んで音楽をやっていた。
ただただ、音楽が好きな細美さんの楽しそうな顔をライブで見た時は、ELLEGARDENじゃなくても、細美さんがただ笑って、音楽をやっていてくれたらそれでもう十分だと思った。まだこの世界にいてくれてありがとうと思った。
震災でどうしようもなく悲しかった時、
細美さんとトシローがギター1本抱えて地元で歌ってくれてどれだけ救われたか。
だけどやっぱり、ELLEGARDENじゃないとできない音楽があるみたいだ。
✱ ✱ ✱
わたしは1番聴いていた高校生の頃、浪人していた頃、エルレの音楽を縋るように聴いていた。
それは何でだろうと思うと、
やっぱり細美さんの危なっかしくも優しくて、
繊細なのに力強く進んでくれる歌声に、
自分を重ね合わせていたからなんだろう。
そんな自分もなかなかいいじゃないかと奮い立たせながら、今日もなんとか頑張ってみようと思っていたからなんだと思う。
ハイエイタスを聴いた時、少し大人になったような気がした。少し背伸びをして、聴くような。優しい声が無条件に包んでくれるような。
だけどエルレは、等身大の、いや今となっては若かりし頃の、もう過ぎ去ったとばかり思っているけど、実はまだ自分の心の中に残っている青春時代を形にしたような、大事なものはなんなのかをもう一度問いかけられているような、そんな気持ちにさせてくれる。
そしてなにより、ハイエイタスを始めてからも、
社会人になってどうしようもなく辛い時も、
かっこいいおじさんたちが前を歩いてくれているからどうにか進んでいけると思っていた。
そうやって、かっこいいおじさんたちの音楽に支えられて、なんだかもう無我夢中で進んできた結果、
今はすこしゆるりと構えられるようになった。
でもまた人生のどこで、必死に必死に進んでいかないといけない日がくるかはわからない。
その時はまた、何度も何度も聴くんだと思う。
今は、かつてめちゃくちゃに聴いていた音楽のおかげで、それを思い出すだけで穏やかな気持ちになれる。
細美さんはよく、
ここには、女性も男性も、年齢も肩書きも関係ない
と言っていた。
きっと彼にとって、だからこそ嘘がつけない場所で、愛おしいくらいに不器用でまっすぐで優しい歌声は、いつだってそんな場所で汗と涙を流すわたしたちのために向けられている。
何度うまくいかなくったって、
何度もう無理だと泣いたって、
ちょっと休んでまた笑えるようになったら組み立て直せばいい。
それを教えてくれたのはELLEGARDENだったのかもしれない。