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ひろしま、おとなの修学旅行

3年前、テレビ局で慌ただしく働いていたころの話だ。

私・同僚Y・後輩N。親しい同僚3人に共通の休みができて、弾丸で広島に日帰りで旅行をすることに。

急遽決まった休み、飛び乗った新幹線の中で行き先をあれこれ吟味する。すると20代になったばかりの後輩Nがぽつりと言った。

「原爆ドームに行ってみたいです。」

世代的に修学旅行で広島を訪れている私と同僚Yは一瞬黙る。「……行きたい?」、と。言葉にしにくいが、日帰り旅イエーイ!というテンションで訪れてはならない場所だ。

「わたし、修学旅行広島じゃなくて。見たことないんですよね。」と続ける後輩N。「なんか、一度は見ておかないといけないのかなって」。

不思議とその一言で、私も同僚Yも「よし行こう」と決めたのだから、小学生のころの私たちの修学旅行にはとても意味があった、いま振り返ると本当にそう思う。(その当時は北海道でスキーだとかアメリカで異文化交流だとか、そういう修学旅行に心底憧れていたものだが。)


広島、天気は快晴。
澄んだ青空にたたずむ戦争の記憶。原爆ドームを見上げた。

近くで見ると大人になった今でもビリビリと伝わる怖さを感じる。

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初めて原爆ドームに対峙した後輩Nは黙っていろんな角度から写真を撮っていた。

私は私で、あることに気が付く。原爆ドーム付近でパネルやイラストを持ってガイドをしているボランティアが数名いるのだが、皆 私と同世代、いや中には学生らしき年下がほとんどだった。

小学生の修学旅行で訪れたときにも、ボランティア活動に従事する方々はいたと思う。あの頃は「おとなのお兄ちゃん、お姉ちゃん」と思っていたが、いま見ると私と同世代ではないか。

個人の旅行客に解説しているのを少し離れたところから聞いていたが、とても分かりやすくて大変勉強になった。

もしこれが仕事のロケハンだったとしたならば、私は青年たちにボランティアに携わることになったきっかけを訊いただろう。いや、別にこのときも話しかけてみれば良かったのだが、きっかけ、なんて言い出すとせっかくの旅行に仕事を持ち出してしまう気がして気が引けた。業界人のジレンマ。


続いて、原爆資料館に向かって歩き出す。後輩Nは「中は怖いですか?」と聞いた。怖いか怖くないかでいうと、控えめにいってものすごく怖い。なにが怖いって、焼け野原を歩く血まみれの人々を再現したマネキンも怖かったし、壁に焼け付いた自転車の影や、8時15分で止まった時計…霊感だとかそういう話ではなく、怖い。小学生が見たからそう感じたという話ではなく、大人になって見たって怖いだろう。

お化け屋敷のようにあえて恐怖を煽る演出がされているわけでもなく、原子爆弾による遺品を展示している“だけ”なのにあのように恐怖を感じるというのは、月並みな言葉だが戦争は本当に繰り返してはならないと痛感する。

結果から言うと、ちょうどそのとき原爆資料館は大規模改修中で展示室には入れなかった。1階ロビーにすこしパネル展示があったのみ。それでも後輩Nは「十分です、想像以上でした」と言葉少なに語った。


衝撃だったのは入口にあった「平和監視時計」。
世界で最後に核実験が起きた日を0日として時間を刻むというものだが、なんとなく5年、いや、10年くらい経っているだろうかと思っていた。

答えは、274日。(2017年6月10日訪問時。)
訪問当時、最後に核実験が行われたのは2016年9月9日。なにが5年10年か。まだ1年も経っていなかった。おまけに海を渡ってすぐの北朝鮮で行われたものだったのだ。

毎日テレビやSNSを開いて最新のニュースを追っていたにも関わらず、すぐそばの脅威に気が付かなかったこの状況に恐怖を覚える。

ちなみに、2020年8月6日の現地点で地球監視時計が何日か、ご存じだろうか。

540日。

世界で最後に核実験が行われたのはつい昨年、2019年2月13日なのだ。
昨年ということを知って、どう思うだろう。

(参考)
平和監視時計リセット 米臨界前核実験で 「これで最後に」
https://mainichi.jp/articles/20190527/k00/00m/040/233000c


原爆投下から75年の今日。

NHK広島主催で #もし75年前にSNSがあったら という企画がTwitterで行われている。実在した新聞記者・妊娠中の女性・13才の学生の3人の手記をもとに、75年後の今年、日付を合わせて当時の様子を投稿するというものだ。

昨日までは何事もなかったかのように、戦争で緊張しつつも穏やかな日常が綴られていた。100日後に死ぬワニのように、8月6日になれば何が起こるか分かっていたはずなのに、いまも更新され続ける投稿は今日8時15分を境にあまりにも辛い。

犠牲者を悼み、平和の尊さを考え、当たり前の日常に感謝する今日でありたい。

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2020/08/06 こさい たろ
※写真はいずれも2017年6月、広島訪問時に撮影。


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