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フランス人の先生は日本人の私が描いた太陽に驚く

「はじめてぬるほん」という塗り絵をもらった。
大手おむつメーカー「パンパース」のポイントをコツコツとためることで、ポイントと引き換えに様々な景品の中から好きなものをもらうことができる。満を持して5,000ポイントがたまり、絵本が大好きな娘のために、わが家では塗り絵の絵本に交換した。

パラパラとページをめくってみて新鮮だったのは、「○色で塗ってみましょう」ではなく「目玉焼きにケチャップを描いてみよう」「車に模様を描いてみよう」と、私が知っているかつての塗り絵よりも格段に自由度が高くなっていた。

まだ「描く」ということができない0才児には少し早いだろうかと思いつつも、今ならではの娘の創作も見てみたい気持ちに駆られる。


塗り絵を見るといつも思い出す、私にとってずっと忘れられないエピソードをご紹介したい。

ちょうど私が小学生のころ、私たち家族は父の仕事でフランスに住んでいた。これは通学先の小学校における「美術」(日本だと図画工作)の時間のことだ。

バカンス(夏休み)の思い出を描きなさいという課題が与えられ、私は家族で海に行ったときのことをクレヨンで描きはじめた。

すると、途中経過の画を見て、先生はとても驚いてこんなことを言ったのである。


「太陽は、赤色なの?」 ……と。


この違和感に気付いた人はどのくらいいるだろうか。

参考までに、「絵日記 小学生」で画像検索をかけると、全体の半数以上が太陽を赤色で塗っている。

画像1

引用:よみがえる福島の海 図画コンクール
https://www.kaiho.mlit.go.jp/02kanku/fukushima/zugakon_nyuushou.html


太陽を赤色で描く私を見て、先生は続けてこんなことを言った。


「今までも日本人の生徒を何人か教えてきたけど、みんな太陽を必ず赤色で塗るの。感心しちゃうわ。」


先生が感心する理由は「日本国旗の赤色は太陽を表しているんですってね」と続くのだが、小学生が日の丸に影響されて太陽を赤く塗っているかというと、さすがにそれは先生の深堀りだと思う。が、しかし本当に皆、太陽を赤色で塗るそうだ。


ちなみにフランス人は何色で太陽を描くかというと、黄色、あるいは青い空の中に白色で描くのだ。


先生は「見えたままに描いてみなさい、正解はないの。何色でもいいのよ。」と私の赤い太陽を否定も肯定もしない。

そばで聞いていた少年が「じゃあボクは太陽を緑色で塗るよ!」とおどけると、先生はなんら驚くことも無く、小学生の私たちに偉人クロードモネの話を聞かせた。


「みんなも知っている画家・クロードモネは、光の色を描くことで睡蓮を現したの。光の色には黄色、赤色、青色、紫色……実に様々な色があったわ。あの睡蓮は緑色だけでは描けないの。」


あの先生よりも分かりやすくフランス印象派について教えてくれた教師に私はいまだかつて出会えていない。帰国後 大学でフランス文学・美術を専攻してなお、もう一度あの先生からフランス美術を学びたいとさえ思ったほど小学生にも分かりやすい美術史だった。……授業は美術史ではなく、夏の思い出というシンプルな課題であるにも関わらず、だ。


日本人がどうして太陽を赤色で塗るのか、私なりに考えてみたが、先生や親に赤で塗りなさいと指示があったと言うよりも、そもそも「太陽は赤」という絶対的なイメージがあったように思う。見た目は白に近い黄色であるにも関わらず。成り立ちは違うかもしれないが、実際は緑色なのに「青信号」と呼ぶあたり、太陽も「色は赤」だと思っていたのではなかろうか。もしかしたらロウソクの炎さえも本当は赤色ではなく黄色かもしれない。

私たちは一度得た先入観に疑念を抱くことも無く、太陽を赤色で塗っていたのだろう。(いつ頃から黄色で塗るようになるのかということにまた別の興味が沸いた)


そんな中、初めて娘に買ってあげた塗り絵が、色を指定してくることもなく、さらに塗り絵といいながら「塗りつぶすこと」を求めてこないというのは新鮮で、かつ なんだかとても嬉しかった。

娘は一体何色で太陽を描くだろうか。見守っていると、娘が強く握りしめたクレヨンは勢いよくカーペットの上へ。

なるほど、なるほど。娘にとってはキャンパスさえも無限。嬉しい溜息をつきながらごしごしとカーペットのクレヨンを落としていた私だった。


2020/11/10 こさい たろ


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写真は呼吸 <こさいたろ>
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