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#19 さよなら、いや、また来ます。

旅に出ると、自分だけの世界を楽しめるのが良い。

むしろ、自分は何かの舞台に立ち、演じている主人公で、周りは全て自分の”劇場”の演者、エキストラあるいは演出なのかもしれない。

今回は流行のSNSの作品だ。

”主人公”はSNSを通じてつながった、岩手のフォロワーさんに連れと共に会いに行く旅に出るのであった。

―――――――◇◇◇―――――――

岩手に身寄りはいない。
主人公にとっては、いつも通り列車が走れば線路際にごくたまに行くだけで、今回の地域はシリーズ化された”ドラマ”にも満たない程度。
ただ、趣味のおかげで駅名レベルでは理解できるのが幸いだった。

盛岡で降りると、手が痛くなるほどの寒さが私たちを迎え、東北に来たことを唯一実感させた。

市内の中心部を抜け、少しすると畑が見える。
予想してたより少ないが、一面の雪が冬だということを思い出させる。

「わからなくなったら、電話ください。」

TwitterのDMでこうはもらっていたけれど、何とか自力で着きたいなと走らせる。
しっかし、近くまで来たものの、最後の少しのところが分からない。

「もしもし」

「もしもし」

「なんというか、、、初めまして!」

「こういうときって何て言えばいいんでしょうかね~。今どちらです??」

「十字路まで来て、斜め前には自販機が。」

「それならすぐ近くだわ。出ますねー。」

「あー!どうもどうも!!笑」

すぐに今まで会ったことがあるかのように、一瞬にして溶け込んだ。
家に車を止めるとご主人が笑顔で家の中から手を振る。

私が全くと言っていいほど人見知りしないからなのか、Twitterでのやりとりで既に会った感覚だからなのか。
知らない人の家に来た気がしないのは、前世からのつながりか、何なのか。

―――――――◇◇◇―――――――

「おじゃましまーす!」

作業場に行き、温かい飲み物をいただく。
座ってからは、まるで田舎に帰ってきた感覚で、夢中になって話し始めた。

いや、話を聞いた。

「りんごはこうやって皮ごと輪切りにするのがいいんだ。そうすっと芯のところまで食べられるんだ。最近はスターカットって言うんだか、誰か流行らせたんだよな。」

そんなパパの話のさなか、ママさんは皮をむいて普通に切り出す。

「な~にやってんだ!」

一同笑った。

「私が明日の朝食べますよ。」

そこでなんとなく理解する。平時の主導権は全てパパにあるらしい。
そこから料理の話、冬の測量の話、警察をこらしめた話(!)、そして農業の話。

自分に無い視座、視点、軽快な口調で出てくる話は、こころの温かさが満たされると共に、新しい刺激をたっぷりいただいた。

気づけば5時間弱、時間を忘れて漫談を楽しむ。
来た時には温かかった日差しが、既に日没前の弱いものになっていた。
セーターのまま暖房が利く部屋から出ると、身震いするくらいの寒さ。

外に出た帰り際、夫婦喧嘩の話にまた笑いの花を咲かせる。
ここで気づく。実際の力関係はやはりママの方にあるのだと。

車に乗り込むと、まるで実家の両親が並んで見送るような、田舎の祖父母に見送られるような、どこか寂しい気持ちになりつつ後にした。


「あ!写真撮ればよかった!」

思った頃には少し走った後。
停まった場所で周囲を見ると、早池峰山は雪をかぶり、雪一面の畑が見えた。

せめて”しおり”にするか。

青い空、真っ白な畑、雪を被った早池峰山。
最近好きな空の写真を、思い出のしおりにすることにした。

「また夏に来るよ!!待っててね!」

車で思い出にふけりながら、”次章”での出会いを楽しみに車を走らせる。
冬の岩手のディスカバー。

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『ふるさとの青空』Photo by Taromaru

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