【創作】二人を繋ぐもの

　いつ以来なのか思い出せないくらい、たっぷりとした熟睡感を堪能して目覚めた朝は、天にも祝福されたような爽やかな秋空が広がっていた。
　悩みやマイナスの感情を風に飛ばせるような気分だった。

　俺は高ぶる気分のままジョギングウェアに着替え外に出た。時間を気にせず、コースは心のままに任せたジョギングでたっぷりと汗をかいた。これだけ長い時間をジョギングするのも随分と久しぶりのことだ。
　ゆっくりとシャワーを浴びてから朝食にしようか、そんなことを考えていたときに携帯の呼び出し音が鳴った。
「太郎さん、今日約束してたよね。ずっと待っているんだけど」
「ごめん、忘れてた」とは言わない。少し声を抑え気味に応える。
「連絡できずにすまない、ちょっとしたトラブルの対応に追われてたんだ」
「トラブル？まさか事故とか？　体は、体調は大丈夫なの？」
俺の体を案じる声に、少し申し訳ない気持ちになる。心配をかけないようにもう少し上手な返しをすべきだった。
「あぁ、事故とか病気じゃないから体調は問題無い。トラブルも、片がつきそうだ」
「じゃぁこれからでも良いから、来てくれる」
素直な明るい声に救われる。
「もちろん。君が大丈夫なら１時間で駆けつけるよ」
「わかった、１時間ね。飲み物とか準備して待ってる」

　俺はこの後に、ベッドの上で過ごす時間に思いを馳せた。愛をつなぎ運命の赤いラインで結ばれる二人。どうして大事な約束を失念してしまったのか。この後の時間のために昨夜は飲酒もせず、体調を整えながら就寝したはずなのに。失った信頼を取り戻すことは難しいけれど、今できる最善の行動をとるしかない。
　シャワーを浴び、外出着に着替え、考えられる限り迅速に、しかし慌てずに、彼女が待っている部屋に向かう。

　２時間後、少しけだるい表情でベッドに横たわる俺に彼女が横から声をかける。
「血液から必要な成分を分離しましたので、今から体にお戻ししますね。気分が悪いとか、体調に変化があったら教えてください。輸血用の血液が不足していたので、太郎さんが来てくれて助かりました」
「間に合ってよかったです。遅れて御迷惑をおかけしました」
二人をつなぐ採血管を流れる液体が、鮮血の赤から黄色身を帯びた透明に変わる。
　命をつなぐことができて良かった。俺はゆっくりと目を閉じた。これまで人生でいただいた、たくさんの愛。
　愛を返すことにつながる献血は、俺にとってもかけがえのない時間の一つだ。
（おしまい）

　唐突な創作で失礼しました。
　Zoom研修に参加して時間がないので、過去作のリライトで逃げました。また、この元の作品に「スキ」が１個しかなくて不憫に感じたので、皆さんからの「スキ」をいただきたいという邪な気分でした。
#何を書いても最後は宣伝
　なんと本日、この「会津ワイン黎明綺譚」の紙書籍を購入していただきました。吃驚しました、ありがとうございます、感謝申し上げます。

会津ワイン黎明綺譚