【感想その2】ナースの卯月に視えるもの
この作品についてはAmazonでレビューし、noteでも感想を書かせていただきました。
しかし速攻で感想を投稿し、未読の方の「ネタバレ」をしないように、私が感じたポイントを伏せていました。検討違いの考察に近い感想かもなので、考察系やネタバレが嫌な方は、ここで「そっとじ」をお願いします。
よろしいでしょうか。
本当によろしいでしょうか。
さて本作の設定で素晴らしいことの一つに「卯月だけに視える死を覚悟した患者の『思い残し』」があると考えています。この秀逸な設定がミステリー色を生み出し、登場人物たちの心情を深堀りしていくことになります。
さて問題は「何故、卯月に視えるのか」ということです。私なりの解釈になりますので「解釈違い」が嫌いな方はここでお止めください。
『卯月が死を望んでいるから』
と解釈しています。
卯月は仕事をし生きているけれど、大きな喪失感を抱えて希死願望を抱き、死ぬことを覚悟している。けれど自分の「思い残し」を抱えたままで死ぬことを是とできずに生きている。だから「死を覚悟した患者」と共感して「視える」のではないでしょうか。そして何人かの患者さんの「思い残し」を卯月が解消しようとするのは、卯月が望む未来を実現するため。
「自分も思い残しを解消して旅立ちたい」
ということに繋がるのと感じています。
一方で卯月は今ある「生」を受け入れたいとも感じているように見えます。残された者として、患者に寄り添い職場の力となり生を全うしていきたいという矛盾する感情を抱いているようです。それを象徴しているのが、頻繁に描かれている食事の場面での「生」ではないでしょうか。
noteで交流している「豆島 圭」さんが、感想文で『ウホウホ&もぐもぐ』と表現されていました。作品で描かれている卯月の「死と生」を巡る矛盾と葛藤を『ウホウホ&もぐもぐ』に感じました。
また、患者の『思い残し』の根底にあるのは「他者への優しさ」のように感じています。そして卯月にも「他者への優しさ」が溢れているから、互いに共鳴して「思い残し」が「視える」と感じています。
優しさという言葉を越え、病も死も生きることの全ては悪い事、苦しいことだけではなく、そこに在ることを受け入る、慈愛に満ちた世界が視えているとも感じています。
どう生きるかは、どう死ぬかというゴールに向かうことが必然とも言えると思います。ゴールを直前に迎えた患者さんを前に、卯月が視ているものを私たちも見せられ、私たちはどう生きるかを作者から問われている気もします。
そして、この作品が素晴らしいのは「希死願望」を抱いていた卯月、他者と自分の「思い残し」を解消し、旅立ちを願っていた卯月が、患者や同僚との交流『ウホウホ&もぐもぐ』を通じて成長し、「生き続ける」ことに希望を見出し、生き続けることを覚悟することにあるのではないでしょうか。
生老病死を受け入れて、それでも「人間って、生きるって素晴らしい」という作者からの人間賛歌、慈愛のエールを贈られたような読後感を抱きました。
この作品は、優しさ溢れる作者と登場人物が醸し出す「慈愛の物語」。 全ての生きる方に読んでいただきたい作品です。