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【創作 題名のない物語 第4話】石橋

 木元がケーキを食べ終えようとしているタイミングで
「この後は、どうしますか」
と聞かれて少し焦る。食べたら帰宅するつもりだったので、この後は、ノープランであった。
「直接、話をしたいことがある」とlineを受けたこと、休日の過ごし方の話題で、少し見栄を張り「美術館に行ったりしています」と答えた流れから、美術館で待ち合わせして、一緒に時間を過ごしたけれど、木元の気持ちは、次の豚骨ラーメン屋に向かっていた。西野には伝えていなかったが、久留米水天宮→京橋の美術館→豚骨ラーメンが、木元の休日の過ごし方基本型になる。が、今日、西野とラーメン屋に行く考えは無かった。
 答えに窮する木元に、西野が提案する。
「カラオケでは駄目ですか。今日はお酒を飲んでないので、お爺さんの遺言は守られますよね」
 正直に言えば、西野の歌は凄く聞きたい。あの日以降、ずっと聞きたいと考えていた。しかし、自分の歌は聞かせたくない。それに、二人でカラオケとなると、他人から見たらデートしているようではないか。美術館であれば、偶々一緒になって、そのまま流れでお茶をした、と言い訳ができると考えていたが、カラオケは難しい気がする。爺さんの遺言は正直、どうでも良い。
「カラオケはマズイでしょう。他の人に見られたら、説明しにくいです」
「友達同士でカラオケに行くことに、何か問題でも」
(デートと誤解される恐れがあります)
と、言いそうになり少し堪える。誤解されたら解けばよいか。そのリスクよりも「デートみたいな気分」を楽しみたい自分、そして、何よりも「西野の歌を聞きたい自分」の気持ちが高揚してしまっている。言葉に詰まる。
「カラオケで、良いですね」
「いえ、今日はこのまま帰りましょう」
「嫌なのですか」
「とんでもない。正直、西野さんの歌を聞きたいです。ただ、今日は心の準備ができていないのです。石橋を叩かせてください」
西野が頸を傾げる。そんな姿を可愛いと思うし、もう少し一緒に居たいと思っていた。
「石橋を叩く、ですか。それは渡るつもりがある、と考えてよいですか」
穏やかな口調ではあるけれど、芯の強さを感じさせる。
「そういうことであれば、今日のところは、これで帰宅しても良いです。ただ、最初から「石橋」を理由に断るつもりで、この美術館に来たということについては、残念です」
 アーティゾン美術館が、ブリヂストンの創業者に由来する石橋財団が運営していることを思い出した木元は大きく首を横に振りながら、声を絞りだした。
「とんでもない、そんなことは無いです」
なんで、石橋を叩くなんて言ってしまったのか。自分の至らなさを悔やんだ。


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