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【創作】春

 「光あれ」
 真っ暗な世界で意識を取り戻し、心の中で唱えた。
 お父さん、お母さん、姉妹たちと離れ離れにされて独り土に埋められたことを覚えている。冷たい土の中で眠りについてからどれくらいの月日が流れたのだろう。私に与えられたのは光じゃなくて冷たい水だった。残念な気持ちを抱きながら水を全身で受け入れて土からの養分を吸収し、芽を天に向けて精一杯伸ばした。

 今がいつなのか解からないけれど、春が近づいているのは間違いないと確信していた。青い空、春の風を感じるために、土から芽を出して茎を造り、花を咲かせなくては。それが私の使命であり運命なんだから。
 その日から決まった時間に水が降り注がれ私は着実に成長した。芽が土から外に出たことを感じ、茎がより太くなり、根がより深く潜ることを感じていた。
 仲間の気配はしなかった。風もあまり感じることはできなかった。それでも春の暖かさを感じ、私は蕾を創り意識をそこに留めた。
 そして
 静々とお淑やかに蕾を開き、新しい世界の扉を開いた。
「なんで、ねこー!」
思わず叫んでしまったけれど、猫は聞こえていないみたいで、静かにジョウロから水を注いでいた。
 狭い部屋の中、人の気配はしない、窓からは春の風、カーテンの隙間から青空が見える。

 春はもうそこまで来ている、私は花と成った。ここで生きて命を繋いでいく。
「猫さん、ありがとう」
 目の前の猫に感謝の言葉を伝えた。聞こえないだろうけど。
「にゃぁ」
 猫が微笑み、私も微笑を返した。如雨露の象も笑っているように見えた。

(おしまい)

 唐突にすいません、サムネ画像を見て即興で書いたお話です。
 お読みいただきありがとうございます。三毛猫かずらさんのイラストを見ていると、何だか楽しくなってきて、イラストに合うお話を書きたくなるのです。お読みいただきありがとうございました。
#何を書いても最後は宣伝
 三毛猫かずらさんのnote(イラスト)はこちらです。たくさんのイラストを「みんフォト」に提供していますので、画像



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福島太郎@kindle作家
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