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【創作SS】学校のカイダン1 クロス

 変な女がいる。
 梅雨に入る頃、はっきりと、その女のことを認識した。おそらく一年生だろう。廊下とかで時々視界に入るというか、視線を感じた方向を見ると、そこにいることが増えていた。

 見た目は俺の好みじゃないが、まぁ可愛い。性格は悪くなさそうに見える。いつも一緒にいる友達と楽しそうにしている。少なくとも、隠キャでは無さそう。欲を言えば、勇気を出して話しかけて欲しいところだけど、一年生にそこまで求めるのは難しいか。
「武志、あの女が、またこっちを見ていた」
「お前、よく気づくなぁ」
親友の武志と、そんな話をすることも増えていた。

 帰り、武志と二人で階段を降りようとしていたら、ちょうど「変な女」は友達と昇ってくるところで、4人がすれ違った。
 会釈も会話も無く、4人の無機質な時間が交差した。
 武志との会話が止まり、何かに導かれるように、後ろを振り返ると「変な女」もこちらを振り返っていて、俺と視線が合った。

「変な女」が階段を踏み外し、転げ落ちそうになった。
俺はダッシュして、体を受け止めた。

「ちがー-う‼」
声が響き、俺は突き飛ばされた。

 たたらを踏みながら、何とか転ばずに踊り場まできたが、ホッとして踊り場に倒れこんだ。落ちていく途中、みんなの動きがスローモーションのように見え、俺に手を伸ばそうとする武志、俺を突き飛ばした反動でよろけながら、武志にしがみつく女の姿が、脳に焼き付いた。

「エリ、何やってんのよ、助けてくれた先輩を突き飛ばすなんて」
「変な女=エリ」の友達の声で、現実に引き戻された。
俺は、倒れたまま階段にいる三人に右手を上げて
「大丈夫、問題ない」
と声をかけた。

 エリは俺のことを気にすることなく、武志の制服を掴んだまま告白した。
「武志先輩、好きです。付き合ってください」
俺は立ち上がり、マゴマゴしている武志に背を向けた。
「先に行っている」
人の恋路を邪魔するような真似はしたくない。
(スピードワゴンはクールに去るぜ)
心の中で、親父が偶に使うセリフを呟いてみた。意味はよくわからない。

 俺のことは突き飛ばして、武志には「付き合って」とか、ほんと「変な女」だと思うけど、自分に素直なんだろうと、悪い印象は受けなかった。

(恋という字と変という字は似ているだろう)
親父の言葉を思い出した。変な女は、恋する女だったらしい。

 武志からLINEがきた。
「エリと付き合うことにした」
俺が階段から落ちた日に、二人は恋に堕ちたということか。
「上手くいくといいな、仲良くな」
 武志はいい奴だ、幸せになって欲しい。
 俺は痛む左手をブラブラと振りながら、いつもより紅く見える夕陽に向かった。

 なお、エリに階段から落とされた数日後、俺はエリの親友の梨沙に、恋に堕とされた。

(本文ここまで)
 ということで、唐突な「恋の話」を失礼しました。理由を申し上げますと、「にっこりみかんさん」のこの記事インスパイアです。

 この「佐藤先輩」が、とてもとても、とーっても気に入ってしまいまして、「佐藤先輩」を幸せにしたく、設定を真似しつつ1本書いてしまいました。
 「にっこりみかんさん」面白いお話をありがとうございました。
 なお、このような経過がありますので、「にっこりみかんさん」から削除依頼が来た場合は、本作は削除します。
 また、阿賀沢紅茶先生の漫画、「正反対な君と僕」の影響も受けている気がします。この作品大好きです。

 



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福島太郎
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