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【創作SS】猫の手も書きたい
「お前さぁ、ようやく字が書けるようになったレベルで物語を創作したいって、何を考えてるんだ。俺たち猫は、食っちゃ寝食っちゃ寝をしながら、時々人間をかまってやればいいんだよ」
黒猫タケシが遊びに来るのは分かっていたから、その前に原稿は片づけるつもりだったけど、つい夢中になり時間の感覚がマヒしてしまった。タケシは賢い猫だから、ほとんどの場合正しいことを言っていると思う。
「ごめん、今片づけるよ。マキさんがタケシの分もオヤツを置いていってくれたから、一緒に食べよう」
僕は急いで机の上をかたずけた。タケシは器用にサッシを開くと、すとんと床に着地した。床にはお皿に入ったオヤツが2つ並んでいた。
「おいおい慌てなくていいぜ。オヤツは逃げやしないし、俺も先に食べたりしないから安心しなよ」
僕も椅子から降りてお皿の前に近づき、あらためてタケシの体にスリスリして挨拶をする。
オヤツを食べ終わるとソファで寛ぐ。僕たちは毎日のようにここでお喋りを楽しむ、お互いの下僕のこと、美味しいご飯やオヤツのこと。僕が「お話創り」をしたいこと。
ただ、タケシは「お話創り」に「反対の立場」ということだから、あんまり話をすると「フーーッ!」ってなるから、僕からはあまりしないようにしている。
オヤツを食べ終え、ソファに登ったタケシは背もたれに上半身を預け、足というか股を大きく開き、ペロペロと毛づくろいを始めた。まるでこの部屋の住猫みたいに堂々とリラックスした雰囲気だ。
人間なら「失礼」なのかもしれないけど僕は嬉しい。僕もタケシも物心ついた時には「野良猫」と呼ばれ、街の路地裏を逃げたり隠れたりして生きてきた。
少しの食べ物や寝床を他の猫たちと奪い合いになることも多かったけど、タケシは僕を守ろうとしてくれたし、僕もタケシの力になりたいと頑張って生きてきた。
ひょんなことから僕たちは保護され、うまい具合に近くに住むことができた。2匹とも優しい下僕と、食事と居場所を確保することができた。僕たちは幸運すぎるくらい幸運な猫だと感じている。
外から風が吹き込んできて、僕たちの髭を軽く撫でていった。秋の香りがした。
タケシはもう寝ているようだった。おいおい、今日は全然お喋りをしていないよ。何しに来たんだよ。と思いながらも、お喋りしなくても一緒にいられることが幸せなんだとも思う。
タケシの黒々とした艶のある毛並みをペロペロしたい気もするけど、起こしちゃ悪いから我慢して、新作の構想でも練ろうかな。人間の文字はまだ数文字しか書けないけど、いつか物語を書きたいんだ。
タケシには「読まれない話に意味はあるのかって」言われて、「意味はニャァよね」って、笑ってごまかしたけど、意味なんて言い出したら、僕らが生きていることも、下僕と遊んであげることも、タケシと一緒に過ごすことも意味がないとも思うんだ。
意味は無いかもだけど、僕には書きたいという意志がある。だから書くことに挑戦したいんだ。誰にも読まれなくても、誰からも評価されなくても、モノを書いて生きていきたいって思うんだ。
けどまぁ、今はタケシとの時間を大切にしなきゃね。僕はタケシの隣で同じように体を丸めた。
良い夢が見れるといいな、いつか素敵な物語を描けることを夢見て、今は眠ることにしよう。
(おしまい)
「三毛猫かずらさん」が新作のイラストを「みんなのフォトギャラリー用イラスト」に公開してくださいましたので、このイラストを使いたいためだけに書いた稿になります。
お題から書くのではなく「イラストから創作」ということを楽しませていただき、三毛猫かずらさん、管理人さん、ありがとうございました。
えー、なお、何の設定もプロットもありません。意味も意図もなく「ノリと勢い」だけで書いております。
#何を書いても最後は宣伝
kindle出版している作品はこちらです。「ノリと勢い」とは異なる「人間賛歌」の物語が多いです。
「読まれない話に意味はあるのかって」聞かれたら、私は「ある」と答えますが、読んでいただけたら嬉しいです。
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