【創作SS】テーブル上のハンコウ
思わず立ち上がった。
「サインって、そんなことできないよ」
妻は何も答えず、離婚届の上にスマホを置いた。
画面は夜の繁華街を歩く、僕と後輩の後ろ姿。
「歓迎会の時かな。写真は二人だけど、後ろにみんなもいたし、僕はこの後すぐに家に帰ったよ」
全身から力が抜けて、ストンと椅子に座った。
「普段から、とても仲がいいと、聞いています」
能面のような表情で呟く。
「同僚だから仲良くはしているけど、特別な感情も関係もないよ」
職場の誰かが、妻に捏造情報を流しているのかもしれない。数人の顔が浮かんだが、信じたくはなかった。
「信用して、いいの」
妻の表情が、少し和らいだように見えた。
反攻するなら今!
咳払いを1回、空気を変える。
「打算でも妥協でも惰性でもなく、好きだから、愛しているから。
君と一緒に暮らしたい」
「……珈琲、淹れ直すね」
妻は珈琲カップと離婚届を手にすると、背を向けた。
同僚のダセイ行動のせいで、閉じてしまった妻の心、開放されたことに安堵した。
(本文ここまで)
たらはかにさんの【毎週ショートショートnote】
裏お題【惰性のエッヘン開放】です。
#毎週ショートショートnote
フィクションです、実際の出来事や組織、人物とは関係ありません。
今朝、投稿した【テーブル上のシンコウ】が、ハッピーエンドなのか疑問があり悔しいので、展開をひっくり返しました。
前回の作品はこちらです。
#何を書いても最後は宣伝
皆の恋が成就し、幸せに暮らして欲しいと願う福島太郎による、恋愛要素が強めの作品がこちらです。
「光流るる阿武隈川」、「スプラウト」は恋というより「愛」が強めな気がします(個人の感想です、結果を保証するものではありません)。
福島太郎は、6月18日(日)に開催される「文学フリマ岩手8」に出店予定です。
参加される方々と交流できますこと、楽しみにしています。