二人を別つまで
大学進学を機に、一人暮らしをする娘を山梨に残し、車は郡山に向かって高速道路に入る。
談合坂に入る前に雨が降りだした。
「涙雨ね」
助手席の妻が呟く。
「綾香が、青春の花を咲かせるための、催花雨かもしれないよ」
「何よ、最高かもしれないって、人が悲しんでいるのに」
睨む気配が伝わるけど、恐くて横を見ることができない。
「僕らの娘だよ、最高の大学生活の始まりだよ」
合唱を続けたくて、遙か圏外から合格を成し遂げた娘を僕は誇りに思う。妻も同じように、娘を誇りに思い、信頼しているはず。
車内の空気が和らぎ、車は峠を越えて下り坂に入る。
娘のことを心配し過ぎて、君は気づいてないかもだけど、今日からは二人の生活が始まるよ。
「僕らの、最高の生活を応援する雨かもしれないね」
キョトンとする気配が漂う。
僕は心の中で呟く
「雨の日も晴れた日も、病める時も健やかなる時も、君を愛し続けるよ」
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