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【創作】題名のない物語WSS 第7話

第7話 料
 木元が選んだ中華料理屋は、有楽町からほど近い、銀座一丁目にあった。国分寺までの帰路を考えると、東京駅が近いのはありがたい。あまり綺麗とは言えないビルの2階へと登る。
「今日は駄目ですけど、餃子が美味しいので、時々利用しているのです。今日は西野さんと来ることができて嬉しいです」
 そんなことを話しながら木元がドアを開けると、中華料理屋の特有の香りが鼻を突く。店内は清掃が行き届いている感じ。中国訛りを感じるウエイトレスの案内で、テーブルにつく。
「西野さん、お願いがあります。お金は僕が出しますので、この「コース料理」を頼んで良いですか。嫌いなものがあれば止めてもらって大丈夫です。来る度に気になっていたのですが、2人前からなので注文できずにいました」
 真剣な表情で、何を言うのかと思えば、そういうことですか。「西野さんと来ることができて嬉しい」というのは、「私」が必要ではなく、コース料理のために「誰」か、もう一人が欲しかったということ。
「はい、コースで良いですよ。ビールも頼んで良いですか。けど、割り勘にしましょう。私もちゃんと食べますから」
「ありがとうございます。じゃぁ、そうしましょう」
 木元はニコニコしながらウエイトレスを呼び、注文する。クリスマスプレゼントを貰った子どものような、無邪気な表情。この表情を前に、仕事の話をするのは悪いような気がしてきた。
 今日のところは、老舗っぽい中華料理屋の味を楽しむことにしましょう、割り勘だし。これまで、奢ろうとする人は、優しさではなく、やらしさがセットになっている気も感じていたけど、木元からはそういう邪気を感じることができなかった。もしかして、女性ではなく、男性に魅力を感じるタイプなのかしら。そういう世界を否定するつもりはないけれど、これまで関わりをもったことがないので、どう対応していいかわからない。仕事のことも聞けないけど、恋愛の嗜好についてはもっと聞けない。
 単純にいい人なのかも知れない。もしかしたら私のことを「どうでも」をつけた「いい人」と見ているのかも知れないけれど。
 料理はどれも予想以上に美味しく、西野を満足させるものだった。少しだけ木元を見直した。


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福島太郎@kindle作家
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