【創作SS】夢見る故郷 #シロクマ文芸部 #会津ワイン黎明綺譚外伝
秋が好きなのは、秋にはお婆ちゃんとの思い出がたくさんあるから。
子どもの頃から秋のお彼岸には必ず、山梨のお婆ちゃんの家に帰省していた。お婆ちゃんはいつもニコニコと満面の笑顔で迎えてくれて、たくさんの楽しい時間を過ごしたけど、庭の葡萄の木を見ながら、お婆ちゃんの話を聞くことが一番楽しみだった。
小さい頃に初めて見た「木に生る葡萄」は瑞々しく輝いていて、ありきたりな表現だけど、大きな宝石の塊みたいに見えた。葡萄を見上げていると
「桃ちゃん、食べてごらん」
お婆ちゃんは、葡萄をもいで食べさせてくれた。
私は大学を卒業する年齢になった。今年も秋のお彼岸にお婆ちゃんの家を訪れることができた。今も葡萄の木はお婆ちゃん家の庭にある。
自分で葡萄をもげるようになったけど、今年の葡萄は、ちょっと固くて酸っぱかった。
お婆ちゃんのお父さん、私の曾祖父ちゃんは、明治3年にワイン作りの勉強をするためにカリフォルニアに移住して、そこでお婆ちゃんが生まれたの。
お婆ちゃん家族は、帰国するまでの6年間、カリフォルニアにあった日本人コロニーの人たちと一緒に生活して、お婆ちゃんはとても可愛がってもらったって教えてもらった。
お菓子や果物が手に入ると真っ先にお婆ちゃん食べさせてくれたり、読み書き算盤を教えてくれたりしたこと。
貧しい暮らしをしていたのに、お婆ちゃんたちが帰国する時には、たくさんのお土産を持たせてくれたこと。
『賊軍とされたワシらは日本に戻れないが、大藤さんが故郷でワイン造りで成功すること、家族の健康、日本の発展を願っている』
曾祖父ちゃんにエールを贈ってくれたこと。
お婆ちゃんが子ども時代を過ごしたカリフォルニアに、若松コロニーはもうないけれど、庭の葡萄の木は、今年も輝く実りをもたらせてくれている。
空は青く澄み渡り、天は私と葡萄の木に、微笑むような柔らかな光を降り注いでくれている。
縁側から部屋に入り、仏壇に手を合わせてお婆ちゃんに報告した。
「春から会津で働けるかもしれないよ。新鶴村で募集していた「ふるさとサポーター」っていう仕事に応募したの。3年間の期間限定になるけど、合格したら会津の人たちのために一生懸命お仕事するね。
葡萄農家さんのお手伝いもするみたいだから、お婆ちゃんの葡萄に負けないような美味しい葡萄を作れるよう頑張るから、どうか、応援してください」
部屋に風が吹き込む。少し遅れて、ほんのりと葡萄の香りが届く。
やっぱり秋が好き。
会津の秋も好きになれるといいな。
写真の祖母はニッコリと微笑んでいた。
(本文ここまで)
「秋が好き」から始まるお話、昨日に引き続き「会津ワイン黎明綺譚外伝」として参加です。
拙著「会津ワイン黎明綺譚」をお読みいただいた方へのアフターサービスとなる小品です。昨日の「幕が上がる」で登場させることができなかった「桃ちゃん」を登場させることができて、かなり嬉しいです。
譲二、良樹、智恵子、桃ちゃんが「どんな物語を創るのか」、kindleで確かめていただけたら嬉しいです。どんな作品か気にしていただける方には、こちらの記事が参考になるかと存じます。
この「外伝」を書くきっかけ、シロクマ文芸部での素敵な「お題」を出してくださった「小牧幸助部長」、そして、先日とても良い「キュン」を感じさせてくださった「にっこりみかんさん」に改めて感謝いたします。
#何を書いても最後は宣伝
なお、本作のタイトル「夢見る故郷」は、この「夢見る木幡山」へのオマージュです。