【創作 題名のない物語 第9話】夢路
木元のスマホが、軽い音を告げる。
(夜中だというのに)
寝足りない感覚がある。こんな時間にlineを送ってくる友人の顔が、一人だけ浮かぶ。
(もしかしたら、好きな男性とのデートの後か)
スルーしようかと考えたが、スマホを手にとる。
「紫蘇が枯れてしまったの」
一行だけ表示されていた。
(屋内のポット栽培とはいえ、紫蘇を枯らす?あんなに強いのに)
青空の下、紫蘇が溢れるように葉を実らせていた福島の風景を思う。生きにくい都会では、紫蘇を育てることさえ難しいのか。
古い漫画の一場面が浮かんだ。
『実らなかった恋に意味はあるのだろうか』
答えはわからないけれど、僕らが睦ぶ日々は戻らないけれど、彼女に伝えなければならない。
「紫蘇は、君と一緒に暮らせて幸せだったと思う」
マナーモードにして、スマホを置く。
これ以上のlineはしたくない。想いが止まらなくなる。逢いたくなる気持ちが溢れてしまう。
逢いたい、だから今はただ眠りたい。夢で君に逢えることに期待したい。
もう、夢でしか逢えないけれど、いつも、いつまでの君の幸せを祈っている。
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