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糖尿病と年末年始/映画「PERFECT DAYS」に人生を見た

あけましておめでとうございます。

驚異の連休みたいなことを言われていた今回の年末年始も気付けばあとわずかとなりました。フリーランスの自分にとってはあんま関係ないっちゃないですが、基本カレンダーに合わせて仕事したり休んだりしてるので多少の切なさはあります。が、そんなことより昨年末に判明した糖尿病のほうが個人的にはだいぶ大変でした。

年末年始といえば酒飲んだりご馳走を食ったりして生物としての享楽にふけって楽しむものと法律で決まっています。しかしながら自らの業によって膵なしとなった私は酒だけでなく食も自由が利かぬ身となり果てました。世間の楽しげなムードとは対照的に、ずっと「これは食えるのかな?」と「糖尿病 〇〇(食べ物の名前)」で検索していると、僕ってこの先一体どうなっちゃうんすかねえ、と途方に暮れるような気分にもなりました。

それでもお正月は楽しかったです。ふるさと納税のいい海老を妻と一緒に調理したり、大晦日のスーパーで普段より豪華なお刺身を買って食べたらおいしかったり、おせちの中から食べられそうなものをつまんだり、映画やゲームをたくさん楽しんだりして過ごしていたら、生きてる以上なんかしらやりようはあるなと思えました。

元々ネガティブ思考が強く、さまざまな悪い想像をしておくことで事前に対策をしたりいざそうなったときの心のショックをやわらげるような生き方をしてきましたが、ここまでくるともはや「なるようにしかならん」という気持ちです。過度な希望もないし、過度な絶望もない。こんなこと自分で言いだすと色々アレだと思われるでしょうが、薄ーく悟りに近い状態になってきた気がします。

禅には日常生活の全てが悟りに向かう修行だという考え方があるそうです。飯食ったり風呂入ったりゴミ捨てたり、そういう全部が修行。僕は要するに「丁寧に生きれ~」って意味だと解釈していて、だから逆にそんなことずーっと考えてたら気が狂うから酒飲むんじゃ、煩悩が人間らしさじゃ、と思っていたわけですが、齢39の膵なし野郎となるに至って、ようやく「禅」の世界観を受け入れられたのかなと。望んで受け入れたというよりは、そうせざるをえないのでしょうがなくやりだしたって感じですが。

年末に観た映画『PERFECT DAYS』がちょうどそんな感じで「丁寧に生きる人間」を描いていてめちゃくちゃぶっ刺さりました。

東京の風呂なしアパートで慎ましい独身生活をしているトイレ清掃員のおっちゃんの話。おっちゃんは毎日判で押したように同じ生活を送る。毎朝同じ時間に起き、植木に水をやり、家の前の自販機で缶コーヒーを買い、軽トラで職場に向かいながら、カセットテープで往年の名曲を聴く。どうせすぐに汚れる東京の公衆トイレを毎日誰も見ていないような隅々まで磨く。仕事が終わると一番風呂で銭湯に入り、決まった飲み屋で一杯のチューハイを飲む。帰ると布団の中で文庫本を読み、ウトウトしてきたら寝る。そしてまた朝が来る。

そんなおっちゃんの朴訥とした日々が、しかし不思議と豊かに見えるのです。

おっちゃんは無口だが人を避けているわけではない。穏やかだが感情がないわけではなく、怒ったり泣いたりもする。毎日同じ木陰で同じように昼食のサンドイッチと牛乳を食べながら、同じような木漏れ日の写真を撮り、同じようではあるけど決して同じではないその差異に喜びを見出す感受性がある。それを誰かに見せびらかすでもなく、自分だけの楽しみとして強く優しく自己完結することができる。

なんかその感じがむちゃくちゃによかったです。自分がそうなりたいかというとそういうわけではないけど。ただでも現状の僕の「残された手段の中でできることをやる」という方針の行きつく先はわりとそういうところに近いのかもしれないと思った。

病気にならないとか精子がなくならないとか、もっと他の可能性はいくらでもあったのかもしれないけど、今の僕に与えられた役割がトイレ掃除ならそのトイレ掃除を真摯にやるしかない。それは前向きとか後ろ向きとか真面目とか打算とかではなく、自分のために自分がそうあるしかないのだと思う。

というとなんだかあまりに自己完結的すぎますが、そうした気持ちで今年も文章を書いたりネット活動をしたり飯を食ったりゴミを出したりしていきます。どれだけ世の中の役に立つかわかりませんが、結果的にみなさんの使うトイレが少しでもきれいになっているみたいなことにつながっていたらいいなと願っています。本年もよろしくお願いいたします。

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