映画「大きな家」感想 「配信・DVD化なし」だから描ける児童養護施設の子どもたちのリアル
映画「大きな家」を観てきました。実際の児童養護施設に住む子どもたちの生活に密着したドキュメンタリー。
DVD化や配信などはせず劇場上映のみで子どもたちのリアルを描くという手法は、以前観た「14歳の栞」と同じもの。監督も同じ竹林亮さん。鑑賞の方法を限定し、上映前に「SNSなどで詮索や誹謗中傷はやめてね」と呼びかけることで現実に存在する“普通の彼ら”のプライバシーを守っています。その手法自体に性善説的な思想が感じられるのもよい。インターネットはもはや人々が本音で語るには開かれすぎてしまったけれど、そんな時代でも人の優しさを信じ肯定したいという思いを感じる。
「14歳の栞」では何者でもない中学2年生たちのありのまますぎる現実が描かれ、誰もが登場人物の中に思い思いの「中2のときの自分やクラスメイト」を見出すことができました。一方、「大きな家」で描かれるのはほとんどの人に馴染みの薄い児童養護施設という場所。観た後にどういう気持ちになるのか、正直あんまり予想がつかないまま観に行きました。
結論から言うと、あんま暗い気持ちにはならなかった。ただ、それは「あんまり暗くならないように編集しているから」というだけかもしれないし、本当のところがどうなのかはわからない。映画の冒頭でもそんな案内があるけど、登場する子どもたちの事情を細かく説明することは意図的に避けられているから。
この映画で映し出されるのは、あくまで児童養護施設の子どもたちがみんなで飯食って笑い合う姿であり、喧嘩する姿であり、部活に打ち込む姿であり、あっけらかんと発せられる「親は3歳の時に死んじゃったけどね」「20年後も生きてるかどうかなんて考えられない。生き地獄っすよ」といったセリフです。
物心がつく前から施設で暮らしている子、親に会ったことがない子、定期的に親子で会ってはいるけど家には帰れないらしい子など色々いるけれど、こういうドキュメンタリーでキモになりそうなそのへんの事情にはそこまで踏み込まない。あくまでこの映画の目的は彼らの「日常」を伝えることであり、我々のような無関係な他人がそうした個々の事情に野次馬根性で興味を持つことは彼らの望まない「非日常」だからなのかもしれません。少なくともそういう意思を感じる映画でした。
企画・プロデュースの齊藤工さんが公式サイトに載せている文章がよかった。
映画ではちょっとおませな態度でカメラマンに施設を案内してくれる7歳の女の子から、18歳の年齢制限を過ぎ、施設を出てからもちょいちょい施設に飯を食いに来る19歳の男の子までさまざまな子どもたちにスポットが当たる。
明るいやつもいれば暗いやつもいて、優しいやつもいれば喧嘩っ早いやつもいる。要するに各々が普通に個性的なのだけど、ほとんどの子どもが「ここは家ではなく施設」「家族ではなく他人」ということを言っているのが印象的だった。
ある少年は「施設の人は他人だから言いたいことを言って喧嘩もできる。たまに会う兄弟とは喧嘩をしないから家族だ」ということを言っていた。これもびっくりした。普通逆じゃね、と思ったから。
これは愛情が欠けているとか情緒がどうとかそういうことではなく、彼らが生きてきた現実がただそういう現実だったのではないかと思った。むしろ「家族とはそばに居るもの」という環境を当たり前のものとして育った我々のほうこそ近視眼的であり、「家族という他人」との距離感を見誤っている可能性すらある。
ちょうど先日観た「どうすればよかったか?」も統合失調症の家族のドキュメンタリー映画で、あまりにもいろんな形があるなと思った。うちも両親が離婚してたり、離婚後も母親と親父の再婚相手の中国人が一緒に家族旅行行くような付き合いがあったり、自分も結婚直後に死にかけて無精子症になったりと、傍から見れば多少珍しい形の家族を経験しているので、家族って一体なんなんすかねーという気持ちになった。
上述の少年は野球部の仲間に「大きい家でしょ」と自分から施設に住んでいることを話すという。「そうすればあとは自分で調べるでしょ」と言っていた。そう聞くと「大きな家」とは言い得て妙というか、様々な意味合いを持つ非常にいいタイトルだなと思った。
大体そんな感じのことを思いました。他の人がこの映画を観たあとに何を思うのか気になる。楽しそうな様子も大変そうな様子もどっちもフラットに描かれるから。人生ってそういうもんだよね、という気もする。
あと、エンディングのハンバート ハンバートの曲の入り方がめちゃくちゃよかったです。この映画にぴったりだと思ったし、この歌詞で「映像を見る前に作った」というのも地味にすごい。皆さまも興味があればぜひ劇場で見て、よかったら感想を教えてください。
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