【知らなきゃヤバい】売れる営業と売れない営業、たった1つの違い
こんにちは、タナタローです。
とある部品メーカーで、技術営業やってます。
営業職やっていると、
「今期の売上目標、○○億だ!」
とか、
「何が何でも商談とってこい!」
とか、会社からいろいろ言われたりしますよね。
そんな時、どうしてます?
「よっしゃ、やってやるぜーーー!」
「俺に任せろ!」
「必ず営業トップとってやる!」
とかってなります?
正直、ガンガン行ける人はすごいなと思うのですが、僕はというとですね、性格が災いして、ちょっと無理なんですよね・・・。
とりあえず商談さえとれればいいとか言う人もいるけど、お客様に嫌な顔されたりすると、正直キツイです。
メンタルもちません。
とは言うものの、愚痴ったところで状況が改善するわけでもなく・・・。
というわけで、ここからはどうしたら
「楽しく営業で成果を出せるのか?」
「関わる人みんなが、ハッピーになれるのか?」
という理想論を胸に、今から何を知って、どう行動していけばよいか、について考えていきたいと思います。
やはりこういった場合、いろいろ仕事で試してみるってのもありなんですが、まずは参考になりそうな人を探して、その人をマネることから始めたほうがよさそうです。
ただ、ここで大きな問題が・・・
いないんですよ
えっ、誰がって?
いないんです、まわりに自分が理想とするトップ営業マンが。
よく考えたらそうなんですよね、そんな人が会社にいたら、こんなこと悩んでないんですよね。その人に教えを乞えばいいだけなんだから。
『どうすりゃいいんだ・・・』
ということで、僕がたどり着いたのがビジネス書でした。
(結局、ビジネス書の話か~い、っていうのはおいといて)立ち読みもふくめ、参考になりそうな本を片っ端から読んでみました。
いろいろ本を読んでみて分かってきたのが、楽々、売り上げをあげるようなトップ営業マンと平凡営業マンとでは、そもそもの、お客様へのアプローチのしかたが全然違うってことなんですよね。
しかも、ごく稀に天性の人たらしがいますが、そういった人だからできるといったものではなく、誰でもそれを知識として理解し、さらに体感的に理解できれば、再現可能。だって、脳の仕組みに基づいて行っているから。
いやぁ、これは知らなんだ・・・
というか、脳の仕組みに着目するとは、考えてもみなかった・・・
具体的に、何がどのように違うのか?
どういった考えにもとづいて、そんなことをしているのか?
今日はそんなことを、書いていきたいと思います。
ストーリー仕立てです。
時間の許す限り、ぜひ読んでいってください。
どうしたら売れるのか?
【登場人物】
鈴木武志(すずきたけし)
25歳、新卒3年目。
営業職をしているが、商談がうまくいかず毎日あたふたしている。
そんな自分に嫌気がさしていて、なんとかこの状況を抜け出したいと考えている。
近藤正男(こんどうまさお)
42歳、たけしの上司。
古臭い営業スタイルで、商談獲得は、いかにお客様を訪問するかで決まると思っている。多少、強引なところがあり、売り込み感が強いため、お客様は心の底ではあまり正男のことを良く思っていない。
桐生英雄(きりゅうひでお)
35歳、たけしの先輩。
皆から一目置かれている存在で、次から次へとビジネスアイデアを提案し、お客様の業務課題を解決していっている。会社の中でも、商談獲得件数は常にトップ。いつもヘマばかりしている、たけしを心配しており、脳科学の知識を用いた営業のコツを教えようと考えている。
【イントロダクション】
どんよりとした曇り空が広がる午後3時。
たけしは、会議室の長いテーブルの端に座り込んでいた。
冷たい木製のテーブルに手を乗せながら、たけしは資料の山を前にうなだれている。
その山の中に、一枚の目立つ紙がはさまっていた。
赤ペンで大きく書かれた「×」の文字が、たけしの視界に焼き付く。
「鈴木!お前、これで何回目だと思ってるんだ!」
怒声が会議室に響く。
たけしは身を縮めた。
隣で声を張り上げているのは彼の上司、近藤まさおだ。
近藤はスーツの袖を腕まくりしながら、資料をバサバサと机に叩きつけた。
「この簡単な商談すら、まともにまとめられないなんて、どういうつもりだ!」
「申し訳ありません……」
たけしは小さな声で答えた。
背筋を伸ばすどころか、椅子に沈み込むように座っている。
「申し訳ないじゃ済まないんだよ!」
近藤はさらに声を荒げた。
「お客様の信頼を勝ち取るには、とにかく顔を見せることが重要なんだ。
1日20件訪問して、顔を覚えてもらえ。
数こそが勝負だって、何度も言ってるだろうが!」
たけしはその言葉にあいまいにうなずいたが、心の中ではモヤモヤした感情が渦巻いていた。
確かに、数をこなせば成果が出るという話は何度も聞いている。
でも、それを実践しても、自分の場合は思うような結果が出ない。
なぜなのか。
「おい、聞いてるのか?」
近藤が机を叩いた音で、たけしの思考は現実に引き戻された。
「はい……すみません……」
たけしは小声で答えた。
会議室の空気が重たく沈む中、突然ドアを軽くノックする音が響いた。
ドアがゆっくり開き、顔を覗かせたのは、先輩の桐生ひでおだった。
「正男さん、お疲れ様です。」
ひでおは穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「少し失礼します。たけしをお借りしてもいいですか?」
「おい、桐生。また甘やかすのか?こいつはもっと鍛えが必要なんだよ!」
「もちろん、鍛えるのは大事です。でも、鍛えるにも方法がありますからね。」
ひでおは落ち着いた声で返した。
まさおは苛立ちを隠さない様子で腕を組み、深いため息をついた。
「まぁ、お前がそう言うなら任せるけどよ。甘やかしてばかりだと、こいつは伸びないぞ。」
「大丈夫です。少し気分転換させるだけですから。」
ひでおは柔らかな声で答え、たけしに目で合図を送った。
たけしは、肩を落としたまま会議室を後にした。
廊下を歩きながら、ひでおが軽く肩を叩く。
「大丈夫か?」
「……正直、大丈夫じゃないです。」
たけしは苦笑いを浮かべながら答えた。
「何をやってもダメで、どうすればいいのか分からないんです。」
ひでおは一瞬立ち止まり、たけしの顔をじっと見つめた。
「今のやり方が合っていないのかもしれないな。ちょっと休憩がてら、話をしようか。」
こうして、たけしはひでおに連れられ、近くのカフェへと向かった。
道中、曇り空の下で、たけしの頭には
「また叱られるのだろうか」
「自分には向いていないのだろうか」
という不安がぐるぐると巡っていた。
その一方で、ひでおの落ち着いた雰囲気には、どこか救いを感じていた。
【トップ営業マンへの第一歩】
カフェの木目調のテーブルに並べられたコーヒーと紅茶。
窓の外では灰色の雲が流れ、時折、傘をさした人々が行き交うのが見える。
たけしは、店員から差し出されたコーヒーにスプーンを入れてかき回しながら、ぼんやりとその様子を眺めていた。
一方、対面に座るひでおは、自分の紅茶に口をつけると、静かに微笑みながらたけしの顔を見つめた。
「さて、たけし。いきなりだけど、最近の商談で一番困ったことって何?」
たけしは少し考えてから、ため息をついて答えた。
「うまく話を引き出せないことです。お客様に質問しても、なんだか話が噛み合わなくて…。結局、自分ばかり話してしまうんです。それで、いつも空回りして終わってしまうんです。」
「そうか、話が噛み合わないか。」
ひでおは軽くうなずきながら、たけしの目を見つめた。
「それで、相手がどんな表情をしていたか覚えてる?」
「表情…ですか?」
たけしは少し戸惑いながら思い返した。
「えっと、あまり笑っていなかった気がします。どちらかというと、退屈そうで……」
「なるほどね。」
ひでおはカップをそっとテーブルに置き、少し身を乗り出した。
「たけし、これまでに脳科学について聞いたことはある?」
「脳科学ですか?」
たけしは首をかしげた。
「正直、全然分かりません。営業に関係あるんですか?」
「大いにあるよ。」
ひでおは微笑みを深めながら、テーブルの上に指を一本立てた。
「例えば、さっき話したお客様の表情。脳科学的に見ると、それは相手の脳が“危険信号”を出している状態かもしれない。」
「危険信号……?」
たけしは驚いたように目を見開いた。
「どういうことですか?」
「人間の脳には、大きく分けて3つの部位があるんだ。」
ひでおはたけしの視線をしっかりと捉えながら説明を始めた。
「考える脳と感じる脳、そして本能的な脳。このうち、営業において重要なのはどれかわかるか?」
「え~っと、考える脳…ですか?」
「だと思うだろ?でも、じつは違うんだ。」
「最初にアプローチすべき部分は、お客様の本能的な脳と、感じる脳の部分なんだよ。」
「本能的な脳と感じる脳……。」
たけしは少し考え込んだ。
「でもそれが、営業にどう関係するんですか?」
ひでおは、話にくいついてきたな、と言わんばかりに微笑んだ。
「人間は、この本能的な脳と感じる脳の部分が、考える脳よりも優先的に働くんだ。たとえば、重要な話をしているときに、自分の近くで大きな音が鳴ったとする。そんな時でも、たけしは話を続ける?」
「いえ、まずはびっくりして、思わず音がなった方に意識がいっちゃいますね。そしてまずは気持ちを落ち着かせます。」
「そうだろ。たとえ重要な話であっても、安全を確認するまでは、話を再開することはないだろう?」
「そうですね。でも、その話と商談の時とでは、全然状況がちがうというか…」
「ふふ、甘いな。これは、商談の時でも同じなんだ。商談では、お客様に決断をしてもらう時があるだろう?」
「はい」
「人の決断は、本能的な脳と感じる脳で始まり、考える脳によって承認されるんだ。つまり、人は感情で決め、それをあとから論理で正当化しているんだ」
「えっ、そうだったんですか⁉」
「簡単に言えば、相手がどんな感情を抱いているかを理解できれば、その感情に寄り添った提案ができるってことだ。」
ひでおは、テーブルにある砂糖の瓶を手に取り、それを指差した。
「例えば、この砂糖の瓶を売るとしよう。ただ単に『これ、安いですよ』って言っただけじゃ、買いたいとは思わないだろ?」
たけしはうなずきながら、話の続きを促した。
「確かに、それだけじゃ買う気になりませんね。」
「でも、『これを使えば、コーヒーがもっとおいしくなりますよ』とか『ご家族で甘い時間を楽しめますよ』って言われたらどう?」
「あ、それなら……ちょっと興味が湧きます。」
「そうだろう?」
ひでおは満足げにうなずいた。
「これが感情に訴えるということなんだ。そして、それを理解するには、相手の表情や仕草、声のトーンから感情を読み取る力が必要なんだよ。」
「でも、どうやったらそんなことが分かるんですか?」
たけしは真剣な顔で尋ねた。
「それにはまず、相手の“安心”を引き出すことが大事だ。」
ひでおは、たけしに視線を向けたまま、柔らかな声で続けた。
「人は安心感を覚えると、本音を話しやすくなるんだ。それが信頼の第一歩。そして、その信頼が商談の成功につながる。」
「さきほどの話で、商談の時、お客様は笑ってなかったって言ったよね。」
「はい」
「それは、単に話が盛り上がってないという話ではなくて、たけしに対して、まだお客様の心の中で無意識にバリアをはっている状態なんだと思う。」
「お客様に対して、いきなり商品の話をしなかった?」
「あぁ、しました。もともと近藤さんからの連絡でお客様に商品を紹介してほしい、ということを聞いていたので…」
「お客様としても、もちろん商品の話は聞きたい。その一方で、お客様の心のなかでは、そう簡単には売りつけられないぞっていう気持ちが働いているんだ。」
「つまり、商品の紹介とかする前に、まずはお客様の心のガードを下げることを最優先に考えるべきなんだ。脳科学的には、本能的な脳→感じる脳→考える脳の順にアプローチしていくんだ。」
「なるほど、そういうことか」
ひでおの言葉を聞いて、たけしは何かを悟ったようだ。
「安心感……信頼……。」
たけしは、その言葉を心の中で何度も繰り返した。
ひでおは少し微笑み、背もたれにもたれかかるとこう続けた。
「まずは、この基本的な考え方を頭に入れておくこと。それだけで、今後の商談の見方がぐっと変わるはずだよ。」
【感情と記憶の鍵】
カフェの窓際の席に座るたけしは、カバンからノートを取り出し、ひでおの教えを書き込んだ。
ひでおは、その様子をじっと観察しながら、黙って紅茶を一口すすっていた。
たけしがひととおりノートに書き終わるのを見ると、ひでおが口を開いた。
「感情と記憶には密接な関係があるんだ。」
たけしはハッと顔を上げる。
「感情と記憶、ですか?」
「そうだ。」
ひでおは笑みを浮かべながらテーブルに身を乗り出した。
「たけし、昨日のランチで何を食べたか覚えてる?」
「え、昨日のランチですか……?」
たけしは眉をひそめて思い出そうとしたが、なかなか出てこない。
「うーん、多分、コンビニのおにぎりだった気がします。」
「じゃあ、去年の誕生日に何をしたかは?」
ひでおがさらに問いかける。
たけしの表情が明るくなった。
「それは覚えてます!家族で焼肉を食べに行きました。
弟がサプライズでケーキを用意してくれて……すごく嬉しかったです。」
ひでおは満足そうにうなずいた。
「その違い、気づいたかい?なぜ昨日のランチはぼんやりしていて、誕生日の焼肉は鮮明に覚えているのか。」
たけしは少し考え込みながら答えた。
「うーん、たぶん、誕生日の方が特別だったから……ですか?」
「その通り。」
ひでおはカップを置き、視線をしっかりとたけしに向けた。
「人間の脳は、感情が伴った出来事を強く記憶するようにできている。特に、嬉しいことや驚き、感動を伴った記憶はね。」
たけしはその言葉を噛みしめるようにうなずいた。
「でも、それが営業とどう関係するんですか?」
ひでおは手を組みながら続けた。
「たけしがこれまで訪問したお客様、彼らが君の話をどれだけ覚えていると思う?」
「え?」
たけしは言葉を詰まらせた。
「たぶん、あんまり覚えてないんじゃないかと……。」
「その通りだろうな。」
ひでおは少し笑いながら言った。
「なぜなら、たけしの話が彼らの感情に響いていないからだ。」
「感情に響かない話……。」
たけしはポツリと呟いた。
その言葉には、今まで自分がしてきた営業の限界を痛感する響きがあった。
「例えばね。」
ひでおはテーブルにあるナプキンを手に取った。
「たけしが売ろうとしている商品が、このナプキンだとする。『これはとても便利で丈夫です』とだけ説明しても、相手はそれ以上覚えてくれない。
けれど、『このナプキンのおかげで、自分の大切な人を喜ばすことができました』という具体的なエピソードを交えて話したらどうだろう?」
「それなら、少し印象に残りそうです。」
たけしはゆっくりとうなずいた。
「そう。さらに、相手にそのストーリーの中で自分を想像させるんだ。」
ひでおは指を一本立てて強調した。
「たとえば、『このナプキンがあれば、あなたも大切な人と大事な時間を過ごすことができます』と。
そうすれば、相手の感情に訴えかけることができる。」
たけしの目が少し輝きを取り戻した。
「感情に訴えかける……それが鍵なんですね。」
「その通り。」
ひでおは満足そうに微笑んだ。
「感情は記憶の入り口だ。それを理解すれば、君の営業スタイルは大きく変わるよ。」
たけしはノートにその言葉を書き留めながら、小さな決意を胸に抱いた。
「感情と記憶の鍵……次の商談で試してみます。」
【営業の本質とは?】
ひでおが持ち出した脳科学を活用した営業テクニックの話は、たけしにとって新鮮だった。
その中でも『まずはお客様の心のガードを下げる』という言葉が、彼の心に強く残っていた。
「先輩、さっきの話ですけど、お客様の心のガードを下げるには、具体的にどうすればいいんですか?」
たけしは興味を隠せない様子でたずねた。
ひでおは微笑みながら、少し身を乗り出した。
「じゃあ、たけし、君が最近行った商談を振り返ってみよう。君はそのとき、何を考えながら話を進めた?」
たけしは一瞬言葉に詰まったが、正直に答えた。
「うーん...正直に言うと、どうやって商品を魅力的に見せるか、そればっかり考えてました。契約を取ることが目標だから、必死でプレゼンしましたけど...。」
ひでおは紅茶を一口飲み、ゆっくりと話し始めた。
「たけし、それが営業で陥りがちな罠なんだ。営業は売り込むことじゃない。相手がどんな悩みを抱えているかを理解し、その解決策を一緒に考えることだよ。」
たけしは少し戸惑った表情を浮かべた。
「でも、売り上げを上げないといけないのも事実じゃないですか。それを意識しないと、結果が出ないんじゃ...。」
ひでおは穏やかな声で続けた。
「たしかに結果は大事だ。でも、本当に結果を出すには、まず相手の信頼を得なければならない。人は、自分のためになると感じたときに初めて心を開く。つまり、相手の悩みや問題に真摯に向き合うことが、信頼を築く第一歩なんだ。」
たけしは目を見開いた。
「なるほど...信頼がないと、いくら良い話をしても相手の心に響かないんですね。」
「その通り。信頼を築くためには、相手が何を求めているのかを理解する必要がある。そして、その答えを一緒に見つけるんだ。それが営業マンの本来の役割だよ。」
ひでおの言葉には、揺るぎない信念が感じられた。
そのとき、隣の席に座っていたカップルの会話が耳に入ってきた。彼らはカフェの新メニューについて議論しているようだった。
「この新作ケーキ、見た目はいいけど、ちょっと甘すぎるんだよな。もう少し控えめな味だったら、また頼むんだけど。」
「そうね。デザインはすごく素敵だけど、味が追いついてない感じ。」
その会話を聞いていたひでおが、微笑みながらたけしに語りかけた。
「たけし、今の会話がいい例だよ。彼らは単にケーキを買いたいわけじゃない。彼らが求めているのは、『見た目も良くて、甘さ控えめなケーキ』だ。でも、カフェ側はその本当のニーズに気づいてないから、商品が売れないんだ。」
たけしはその例に驚きつつも納得した。
「つまり、お客様が本当に何を求めているのかを見極めることが大事なんですね。」
ひでおは深くうなずいた。
「その通りだ。営業も同じだよ。君が商品やサービスを売ることに集中しすぎると、本当に大切なことを見落とす可能性がある。でも、相手の声に耳を傾け、その解決策を提供できれば、自然と結果がついてくる。
そのためにも、まずは相手の信頼を得ること、安心してもらうことに全力をそそぐんだ。」
「なるほど」
たけしは、ひでおの教えをノートに書きこんだ。
たけしはひでおの話を聞きながら、自分の過去の商談を思い出していた。そして、心の中で誓った。
「次の商談では、相手の話をもっとじっくり聞いてみよう。お客様が何を求めているのかを、ちゃんと理解するんだ。」
この時、すでにカフェの時計が午後4時を指していた。
ひでおは立ち上がり、たけしの肩を軽く叩いた。
「さあ、そろそろ戻ろう。次の商談で、君がどう変わるか楽しみにしてるよ。」
【新たな挑戦】
薄曇りの空の下、たけしは営業カバンを片手に歩道を急ぎ足で進んでいた。
胸ポケットには、ひでおからもらったメモがしっかりと収まっている。それは、彼にとってまるでお守りのような存在だった。
「感情を引き出せ。ストーリーを語れ。」
たったそれだけの言葉だが、今のたけしにはその意味が重くのしかかる。
目の前には、今日の商談相手である小さな会社のオフィスビルが見えてきた。
たけしは少し立ち止まり、深呼吸を繰り返した。
過去の商談では、いつも事前準備が不十分で、相手の反応を見てから慌てて対応していた。だが今日は違う。ひでおの教えを胸に、初めて自分から相手の心に近づこうと決めていた。
オフィスの扉を開けると、たけしを迎えたのは商談相手の社長、田中だ。
40代半ばの田中は、柔和な笑みを浮かべながらも鋭い目つきをしていた。
その目が、たけしの未熟さを一瞬で見抜くような気がして、たけしは少し緊張した。
「鈴木さん、どうぞこちらへ。」
田中は会議室へと案内した。
テーブルには資料が整然と並べられており、その整頓された様子にたけしは少し気圧された。
「今日はわざわざありがとうございます。」
たけしは腰を下ろすと同時に、一言目を慎重に選んだ。
「まず、御社のウェブサイトを拝見しました。地域の伝統工芸品を現代に生かす取り組みに感銘を受けました。」
田中の目が少し柔らかくなった。
「お、そこに注目してくれるのは嬉しいですね。」
「実は、私の祖父も木工職人でして、子供の頃はよくその仕事場に遊びに行った記憶があります。木の香りや、手作業の温かみが忘れられません。」
たけしは話しながら、祖父の工房での思い出を思い浮かべた。
田中は興味深そうにうなずいた。
「それは面白い。鈴木さんは、伝統工芸に何か特別な思い入れがあるんですね。」
たけしは内心の緊張が少し和らいだのを感じた。
ひでおが言っていた「感情を引き出す」第一歩を踏み出せた気がした。
たけしは資料をテーブルの中央に置きながら話を続けた。
「御社の課題についても少し考えてみました。特に、現代の若い世代にどうアプローチするかという点で、御社の強みを活かしながら解決策を提案できるのではと考えています。」
田中の表情が少し引き締まる。
「具体的にはどんな案ですか?」
たけしは深呼吸をし、メモをそっと握りしめた。
「例えばですが、SNSで職人の技術をライブ配信するのはどうでしょうか。ただ製品を売るだけではなく、職人の技術をエンターテインメントとして見せることで、若い世代の心に訴えかけるんです。」
田中は少し驚いたような顔をした。
「なるほど。職人の技術そのものを見せる、か……。確かに、そういう視点はなかったですね。」
たけしは続けた。
「例えば、実際に若い世代が興味を持った結果、職人の技術を学びたいという人が増えるかもしれません。そうなると、伝統工芸を次世代に継承するという課題も自然と解決に向かうのではないでしょうか。」
田中はしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げて微笑んだ。
「鈴木さん、いい視点を持ってますね。これ、ちょっと一緒に進めてみましょうか。」
たけしの心は歓喜で跳ね上がった。
これまで何度も壁にぶつかってきた自分が、初めて相手の心に響く提案ができたのだ。
オフィスを出ると、たけしはふと空を見上げた。
薄曇りだった空は、いつの間にか青空に変わっていた。
【成長と自信】
たけしが提案した「職人技術のライブ配信プロジェクト」は、田中社長の関心を引きつけ、初期段階の企画会議が進み始めていた。
その中でたけしは、プロジェクトリーダーという役割を任されることになる。
この話を聞いたとき、たけしは驚きとともに不安を感じた。
「俺なんかに任せて、本当に大丈夫なのか?」
オフィスの自席で一人ごとを言うたけし。
だが、そんな彼の背中を優しく叩くのは、ひでおだった。
「お前がやらなきゃ誰がやるんだ。自分を信じろよ、たけし。」
ひでおの言葉はたけしの胸に深く刺さり、彼は意を決して、この挑戦に全力を尽くすと決めた。
:
プロジェクト開始から数週間。
たけしは、職人たちへのインタビューを企画し、彼らの技術がどれだけの価値を持つのかを深掘りすることに集中していた。
ある日、たけしは地元の工房を訪れ、60代の職人である山田さんと面会する。
「こんな若造が何をしに来たんだ?」
山田さんは訝しげな表情でたけしを見た。
しかし、たけしはひでおの教えを思い出し、まずは相手の感情を理解することに努めた。
「山田さんが作られた作品をいくつか拝見しました。手触りやデザインが素晴らしいですね。特にこの曲線の部分、どうやって作られているんですか?」
と興味を真剣に伝えた。
山田さんは、たけしの質問に目を丸くし、その後、少しずつ話し始めた。
「この曲線は、実は道具じゃなくて、手の感覚だけで仕上げてるんだよ。若い頃から何万回も失敗して、ようやく身につけた技術だ。」
その話に聞き入るたけしの姿勢が山田さんの心を解きほぐし、次第に打ち解けていった。
その日の夕方、工房を後にしたたけしは、胸の中に大きな達成感を抱いていた。
「相手を理解し、話を聞くことがこんなに大切なんだ。」
その経験は、彼の営業スタイルに新たな基盤を築くものとなった。
しかし、試練は続く。
プロジェクトの途中経過を、田中社長に報告する日がやってきた。
たけしは、集めたデータやインタビューの内容をスライドにまとめ、何度も練習を重ねて臨んだ。
報告会では田中社長から厳しい質問が飛び交い、一瞬たけしは言葉に詰まった。
しかし、深呼吸をし、
「相手の感情を理解し、誠実に対応する」という原則を思い出した彼は、冷静に答えた。
「このプロジェクトが成功すれば、職人たちの技術が世の中に広がるだけでなく、若い世代が伝統工芸に興味を持つきっかけになります。」
たけしの力強い言葉に、田中社長の表情が少し緩んだ。
「なるほど、君の熱意は伝わったよ。引き続き頼む。」
その瞬間、たけしの中に小さな自信の芽が生まれた。
プロジェクトが進む中で、たけしの成長は周囲にも伝わっていた。
上司である正男は、たけしが次々と成果を上げる姿を見て、最初は驚きを隠せなかった。
「あいつ、いつの間にあんなに成長したんだ?」
正男は、自分の古い営業スタイルが限界を迎えていることを、たけしの姿を通じて薄々感じ始めていた。
一方で、ひでおは遠くからたけしを見守り、嬉しそうに微笑んでいた。
「あいつ、本当によくやってるな。」
ひでおはこれまでの経験から、たけしのような若手が成長する姿は、チーム全体に良い影響を与えることを知っていた。
プロジェクトが終盤を迎えた頃、たけしはある出来事をきっかけに、さらに自信を深めることとなる。
それは、田中社長からの直接の感謝の言葉だった。
ある会議の後、田中はたけしにこう言った。
「君のおかげで、我々の工房が再び脚光を浴びるチャンスを掴んだ。本当にありがとう。」
その言葉は、たけしにとって何よりの励みだった。
たけしは帰り道で空を見上げた。かつてはどこか重苦しく感じていた空気が、今は新鮮で活力に満ちているように感じられた。
「まだまだ未熟だけど、これからもっと頑張れる。」
そう心に誓い、彼は一歩一歩、未来に向かって歩み始めた。
ここまで読んで、どうでしたか?
脳科学に基づいたお客様へのアプローチの仕方を、ストーリー仕立てで書いてみました。
「いやいやいや、物事こんな簡単じゃなくない?」
とか、人によっては
「こんなの、当たり前じゃない?」
とか、いろいろな感想があると思います。
もちろん、ストーリーを読むだけで、自分も同じようにできたなら、こんな楽なことはないと思います。
ただ、まずはお客様を知ろう、そのために人間にはどういったクセがあるのか、根本的なところを脳科学で理解してみよう、と思うきかっけにでもなってくれたら、うれしいです。
ストーリーから得られる教訓
ここであらためて、ストーリーから得られる教訓をまとめてみますね。
ざっと、こんなところでしょうか?
ただこれ、客観的に見てみると、普段から意識している/していないで、けっこう、お客様の反応が変わりそうな内容にも思えませんか?
あなたは、新規商談でいきなり商品紹介とかしてませんか?
(僕、脳科学のことを知るまでは、やっちゃってましたよ・・・)
なによりも、まずはお客様の心理的なガードを下げるところからスタートですね。
いろいろ話し足りない気分ではありますが、話が長くなってきたのでここまでにしたいと思います。
一緒に、より良い営業ができるよう頑張っていきましょ~👍
P.S.
脳科学を使ったセールス、マーケティングについて、もっと詳しくなりたい方は、以下の書籍を読んでみてください。
きっと、何かしらあなたの気づきになるはず。