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大谷翔平の契約と信用リスク~ドジャースは20年後も存続するのか?

2023年12月、大谷翔平が10年7億ドルの契約を結んだことが話題となった。
ちょうど当時の為替レートで円換算すると1000億円の大台を超える金額に設定してきたのは、これもドジャースのマーケティング戦略の一環じゃないかと思わされる。

この契約については、後払いが大半ということで実質的な価値は額面で見るよりも低いと考えるのが妥当だ。足下は米国金利が非常に高く、必要な原資は少なくて済むという金融環境がこの契約を大きく後押ししたのは間違いない。
この話については以下の前稿に詳しいので、いまいちピンと来ない方には読んで欲しい。


「信用リスク」

しかしこの契約を考える上でもう一つ考えるべき問題がある。
それは「信用リスク」だ。信用リスクもいわゆる金融の用語で、要は契約の相手方が破綻するなどして、契約が正しい履行されないリスクのことだ。

この場合で言うと、ロサンゼルス・ドジャースが契約の途中で破綻した場合、当然大谷翔平への契約は履行されない可能性が出てくる。

しかし、MLB球団が破綻するなどありうるのか?

実は2011年に一度破綻していたドジャース

MLBの球団が破綻することなどあるのかと思う方もいるかもしれないが、そもそも当のロサンゼルス・ドジャースは2011年に破綻している。

当時、裁判所に提出された債務リストの中にはドジャースに所属していた黒田博樹や石井一久の未払い年俸なども含まれていた。

当然MLB機構としては、リーグの信用を維持するためにも選手給与の未払いなど起こせるはずもなく、MLBの管理下にドジャースを置き、最終的には2012年から潤沢な資金を持つグッゲンハイム・グループがドジャースの経営権を買収する手はずが整ったことで、ことなきを得た。

なお、前年の2010年にはテキサス・レンジャースも破綻している。

このように、実は球団の破綻というのは必ずしも珍しいものではない
ただし、MLB全体のビジネスが非常に好調なことに加え、米国経済自体も順当に成長していることもあり、これまで大きな問題となってない。

もしMLBの人気が急落したり、米国経済が長い不況に入ってしまった場合どうなるのであろうか。大谷翔平の場合は支払いが2044年まであるため、当然そのリスクは無いとは言えないであろう。

1998年のピッツバーグ・ペンギンズ(NHL)の破綻例

実は、他のスポーツでは、実際に支払いが滞ってしまったケースもある。
その一例がNHL(米アイスホッケー)における1998年のピッツバーグ・ペンギンズの財政破綻だ。

ピッツバーグ・ペンギンズは、1992年、今でもNHL史上最高の選手の一人と言われるマリオ・ルミューと7年4200万ドルの当時としては大型契約を結んだ。

しかしそのタイミングは最悪だった。
NHLはその後ロックアウトなどもあり、人気は低迷期に突入。
当然、ペンギンズの経営は危うくなった。
マリオ・ルミューは大谷翔平同様、自身の年俸が球団経営を圧迫してはいけないと考え、自ら年俸支払いを遅らせることなどを提案した。

しかしそれも空しく、1998年には3250万ドルの支払いが不履行となったまま、球団は破綻してしまった。
実はこの時点でペンギンズの抱える最大の負債がマリオ・ルミューへの未払い年俸であったため、ルミューはペンギンズの最大債権者でもあった。

ここでルミューが取った行動は驚きだった。

スーパスター選手が自らオーナーとして経営再建した話

なんとルミューは、自身の未払い債務を株式に転換すると同時に自身が経営者となり、チームを再建することを提案した。
NHLと裁判所は最終的にこの提案を受諾。
ルミューはリーグを代表するスター選手という立場から、オーナーという立場に転じた。
さらには、ルミューは一度選手として引退していたものの、2000年には現役を復帰
監督兼選手でも大変そうなのに、なんとオーナー兼選手がここに誕生した。
(なお、あらゆるケースで先例をすでに描いていると言われる水島新司は「ストッパー」という漫画内において、これより前にオーナー兼選手の主人公を登場させている)

その後、NHLは再びロックアウトを迎えるなど、必ずしも順当であったわけではないものの、ペンギンズはチームの再建に成功。
最終的にルミューは、2021年に経営権を3億5000万ドルで売却し、無事EXITとなった。元の債券から10倍超にもなったということで、投資としても大成功と言えよう。

まとめ

大谷翔平の二刀流は今でも驚きではあるものの、オーナーと選手の二刀流というのもかなりのインパクトだ。
ルミューの例は最終的には成功例と言えるものの、ドジャースが将来的に破綻する可能性というのは決してないとは言い切れない。

大谷翔平がドジャースと契約を結んで以降、様々な記事に目を通したが、知っている限り信用リスクの問題に触れた記事が無かったので、今回書き起こしてみた。

大谷翔平の場合、本人があまりお金に頓着している様に見えないことに加え、CM出演など別の収入源も確保しているため、特段破綻のリスクをケアする必要はなさそうではあるものの、金融出身の私からすると、一般的には20年もの長期契約を結ぶのであれば、相手方の信用リスクというのは本来相当気にされるべきだと感じる。



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