【詩】それはどうしようもなく悲しい
ひとは人形ではない
街を歩いているのは、まぎれもなくひとだ
多様性と無個性が矛盾なくmixした渋谷の異様な空気も
誰もが殻を破る一歩手前で悶えているような新宿の錯雑した空気も
人形には醸せない
どんな街にも愛と憎が入り乱れているが、それらはひとの根源にある美しい性質群の個々の表現型に過ぎない
起源は同じなのだ
だから愛と憎は状況に応じてよく入れ替わる
人形に愛も憎もない
ひとが人形になれば、渋谷と新宿は失われる
ところで、
ひとがひとを殺すのは何故だろう
ひとは何故戦争をするのだろう
それもひとつの表現型に過ぎないのだろうか
ひとが美しいゆえの、
ひとがひとを愛するがゆえの、
その裏返しの
戦争を嘆くのは悪いことではないはずだ
戦争を失くしたいと願うのは正常な心のはずだ
しかし、
そのためにひとが愛を知らぬ人形にならねばならぬのなら
それはどうしようもなく悲しい
*月刊詩誌「ココア共和国」2024年2月号 佳作集Ⅰ*