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【ペインポイントの見つけ方】ユーザーインタビューを有効活用する方法

ANRIというVCでキャピタリストをしている丸山です(リンクは自分のプロフィールページです)。前回はTravel Techの業界分析を投稿しましたが、今回は戦略論的な話をしたいと思います。

PMFまでの道のりを深堀した記事や本はたくさんあるので、今回はその一つの細かい要素に着目してみたいと思います。取り上げるテーマは、PMFを目指すうえで最初の一歩ともいえる「課題・ペインポイントの特定」です。

存在しない課題に対してどんなに素晴らしいプロダクト、優秀なチーム、莫大な資金を投下しても、必要とされてないものは使われません。当たり前に聞こえますが、スタートアップが失敗する理由の多くが「需要が無かった」という事実を考えると、課題特定が極めて困難であることは明白です。

ユーザーインタビューを活用する方も多いと思いますが、このプロセスに多くの落とし穴が存在するため「インタビューを上手に活用する方法」を深掘りをしたいと思います。「これは欲しい!」と大絶賛されたのにトラクションが伸びない…と悩んでいる方にとって少しでも参考になれば幸いです。

【今回参考・引用した図書】
当記事は私自身の経験に加えて、世界的に評価の高く、a16z等のトップティアVCも度々引用する下記2冊の本を参考・引用しております。
① The Mom Test
② What Customers Want


1.「こんな機能があったら便利ですか?」は危険

100%NGではありませんが、インタビューにおいてミスリーディングになり得る「聞いてしまいがち」な質問がいくつかあります。下記のような質問をしたことはないでしょうか?

「この作業をする際、〇〇が面倒・手間だと思いますか?」
「弊社のアプリに〇〇という機能があります。便利だと思いますか?」
「○○ができたら、購入したいと思いますか?」
「弊社のプロダクトに月々いくら払えますか?」

これらの質問に対してポジティブな返答が返ってくると「自分たちの作っているものはやはり需要がある!」と思いがちですが、これは非常に危険です。What Customers Wantの著者Anthony Ulwickの言葉をそのまま借りると

”When companies are collecting information from customers, they are assuming the customers' statements are the inputs they need to successfully innovate. Unfortunately, this assumption is dead wrong"

What Customers Want by Anthony Ulwick

Dead wrongとは「完全な間違い」。つまり、ユーザーが持つ「考えや意見」はプロダクト開発に全くの無意味だと言っています。なぜ間違いなのか、一つ例を用いてみます(The Mom Testにも同様な例が多くあるので参考にしてみてください。下記は自作)
*B2Bサービスで例をあげていますが、B2Cでも同様のことが起きます


全国に複数の拠点を持つ企業に向けて、業績を集約・ビジュアル化するSaaSを開発しているとしましょう。各拠点を管理する統括部の人に話すチャンスがあったので、このように会話したとします。

開発者「集約作業が手間と聞くのですが、御社でも同じ状況でしょうか?」
ユーザー「私が担当しているんですが非常にストレスを感じています」
開発者「1クリックで数字が全て集計され、自動でダッシュボードにグラフ化されるプロダクトが存在したら価値を感じますか?」
ユーザー「それはもちろん、凄い便利だと思います!」
開発者「月々いくらだったら購入の検討がされるのでしょうか?」
ユーザー「営業所の業績報告は重要なので月10万円なら安い気がします」
開発者「でしたらもう少し具体的に機能をお見せするのでフィードバックください!こちらの画面で○○ができまして……」

と会話が盛り上がった場合、恐らく開発者の方は会社に戻り「すごく反応良かった!」と報告すると思います。しかし後日、自信を持って本格的に営業するが話が全く進まず、結局断れることに…
「あんなに反応良かったのにどうして断られたんだ…?」


同じ経験をしたことがある方は多いのではないでしょうか?ではなぜこうなってしまったのかを次章で紐解きたいと思います。

2. 必要なのは「意見」ではなく「ファクト」

結論から言うと、上記例の敗因は「意見を貰うことだけに拘った」です。ユーザーフィードバックはお金を払ってでも欲しいと感じるかもしれませんが、残念ながらPMF前の状態(課題特定が定まっていない状態)では、自社へのフィードバックだけを聞いても殆ど事業は前に進みません。必要なのはユーザーの「意見」ではなく、課題を的確に捉えるための「ファクト」なのです。

これはどういうことか。先ほどの例の「ファクト側」を覗いてみましょう。

  • 毎月定型のExcelフォーマットで20箇所の営業所から報告が送られてくる

  • 担当者一人が統合シートに貼り付け。フォーマットが固定なので所要時間は1社当たり3分程度×20拠点(1時間)

  • 統合シートのPivotテーブルを作成し毎月お決まりのフィルターをかけてビジュアル化(30分)

  • 統括部全員でPivotシートを見ながら議論を月末に行う(2時間)

  • 統括部で議論した内容を、各担当者が各営業所に報告

    • 統括部の担当者が合計4人のため、一人当たり5拠点を担当

    • 1拠点あたりの報告書作成に3時間×5拠点(15時間)

    • 各拠点へフィードバック&議論に2時間×5拠点(10時間)

ヒアリングをしたユーザーからすると集約・ビジュアル化の作業は毎月発生し、ミスをしたら自分の責任になるためストレスを感じるし、1クリックで作業が終わるのであれば凄い便利と発言したのも嘘ではないはずです。
しかし、この1.5時間の作業は仮に月の労働時間が160時間だとしたら業務の約0.9%、月収40万円の社員が担当していたとしても月々3,750円程度の労働となります。これはまさに「手間だがお金を払うほどではない」状態です。ましてや10万円というユーザーの言葉を信じてしまったら、契約に繋がるはずがありません。
自分たちのプロダクトのフィードバックを貰う事だけに集中したため、上記のような非常に重要な情報を逃してしまったのです。

本来このインタビューから得られるはずだったインサイトは下記の通りです

  • 営業所が少なくとも100拠点以上あるような超分散型の組織(フランチャイズ系など)ではないと価格をバリデートできない

  • 定型のExcelフォーマットでうまく回せている企業には訴求しずらい

  • 困っているのは集約ではなくその後の「フィードバック」の部分。集約した情報から各拠点への報告書作成をサポートをする機能の方が魅力的かも

「ターゲティングの変更」もしくは「コア機能の見直し」等、意思決定をするための貴重な情報を得られたはずが、自分たちのソリューションの妥当性確認に固執してしまった結果「今のプロダクトは絶対に売れる」という真逆の結論に至ってしまいました

ではなぜ「意見」だけを聞いていると間違う可能性があるのか?

答えはシンプルで、ユーザーは課題解決のプロではないからです。そのプロは企業・起業家であるべきです。ユーザー以上に課題を理解・整理し、最適な解決策を提供するからこそ、企業は大きく成長します。
ユーザーは基本自分のペインしか見ていません。B2Cのプロダクトであれば尚更で、市場全体を俯瞰しながら全体最適の解決策を考えている人など殆どいません。仮にユーザー意見だけが大事なのであれば、ユーザーの多数決で決められた機能だけを搭載したものを作れば世界一売れるはずです。しかし、当たり前ですが、これは十中八九売れません。

だからこそ、ユーザーと話す貴重な機会を得た際にはフィードバックではなく、彼ら・彼女らが抱える問題を理解するための「ファクト」の収集と深掘りに徹することが極めて重要と言えます。特にシード期のスタートアップであれば、自社のプロダクトの話は一切せずに、これだけに集中することをおすすめします。

It boils down to this: you aren’t allowed to tell them what their problem is, and in return, they aren’t allowed to tell you what to build. They own the problem, you own the solution…Once you start talking about your idea, they stop talking about their problems.

The Mom Test by Rob Fitzpatrick

3. Customer Journeyを整理する重要性

では実際にどうやってファクト集めをすれば良いのか?
ユーザーの課題を深く理解するためにはCustomer Journeyの整理が非常に有効です。Customer Journeyとは、ユーザーが特定の作業を完了するまでに通過するプロセスを分解し、各プロセスの現実と理想のギャップを可視化したものです。様々な作成方法はありますが、個人的に有効だと思う手法を紹介いたします。

上記スライドはいわゆるコンサルっぽい緻密な手法なため、ここまで細かく実行する必要はないと思いますが、抑えるべきポイントを列挙していきます。これはユーザーインタビューを実行する際にも同じ手順を辿っていくとより効果的なものになるかと思います。

3-A 現状:プロセスの分解+重要性評価+定量的評価

  • 一番最初に行うべきは、とことん現状を理解すること。誰がどのタイミングで何を実行しているのかを整理します

  • 上記に合わせてそれぞれのプロセスが「どれほど重要か」をユーザーに追求していき、ランク付けしましょう

    • 「なぜその行動を行うのか?」等、Whyを追求することをおすすめします。大事だと主張していても「やらなくても良いんですけどね」という結論にいたることも多く、落とし穴が多いのも事実。全体を俯瞰して重要性を決めるのはユーザーではなく自分自身にしましょう

  • 定量化も必要です。B2Bであればコスト計算できるので比較的簡単ですが、B2Cの場合は所要時間等を活用して何かしら定量化してみましょう

3-B 理想像:あるべき姿と現時点での満足度

  • 続いて、ユーザーが思うあるべき姿を聞いていきます

    • 注意すべきはこの理想像が「正解」ではないことです。ここはユーザーが実際何に困っているのかを理解するために聞いているので、重要性同様にWhyを繰り替えし活用してみてください

    • このあるべき姿が真のあるべき姿なのかを判断するのも起業側の役目といえます

  • 上記と比較した際の満足度も聞いていきます

    • 有効な質問は「理想に近づくために何かしたことありますか?」です。もし何もアクションを取っていない場合、そこまで不満を頂いていないサインであることが多いです

3-C 差分:理想と現状に最もギャップがあるものは何か

  • 上記A・Bの結果を踏まえ、どのプロセスをターゲットにするべきかを考えます。最も高いニーズがある箇所は「重要性が高く、定量的意義も高く、満足度が低い」プロセスとなります

    • スライドのように点数化する必要はありませんが(世の中全てロジカルに動いていないので)方向性に行き詰っている場合はぜひ活用してみてください。新しい発見があるかもしれません。

  • 営業所の例のようなシンプルな背景だと当たり前なエクササイズに見えますが、B2Cなどのペイン・ニーズが複雑化している市場の場合は「全然知らなかった」要素が多く出てくると思います

まとめると「現状と理想の差分を理解し、その差分が最も大きい所に価値を提供する」ことが大事です。しかし、当たり前ですが数人の顧客インタビューで全ての道筋が見えるわけではありません。ユーザー心理は非常に複雑でユーザー自身も気づいていないペインが多くあるため、いかに愚直にトライ&エラーを繰り返せるかが勝敗の分け目です。その時に闇雲に色々トライするのではなく、ロジカルに考えることで成功への確度・スピードを上げることが可能だと思っています。

また特にtoCビジネスだと「カスタマージャーニーの種類が多すぎて作れない」という状況に直面する場合があるかと思いますが、頻度高く発生するプロセスは描けるはずです。もしこれも難しいとなった場合、恐らくターゲティングしているユーザー範囲が広すぎる可能性があります。このターゲティングの重要性はまた別の機会で深堀できればと思います。

4. 最後に

もちろん、プロダクトに対するフィードバックもある時点では重要になってきます。しかし「何がもっとも高付加価値なのか」を模索している段階ではお客様の現状をファクトベースで収集することに集中してみてください。新たな糸口が見つかるかもしれません。

今回は短く書こうと思っていたのですが、また長くなってしまいました。最後まで読んで頂いた方、ありがとうございます。

そしてANRIでは常に起業家の方々にお会いできることを楽しみにしております。起業準備中の方、これから資金調達を考えている方、ぜひご連絡頂けたら嬉しいです。「まずはフラットに相談したい」でも全然良いのでいつでも気軽にご連絡ください!


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