令和5年度の1級建築士設計製図のエスキスはこう考えた
令和5年度の1級建築士の設計製図試験。
予備校をはじめとして、色んな人が考察をしてたりしますけど、結局採点者にしかその基準ってのはわからないんで、どれが答えというわけではないと思うんですよね。
この試験の一番難しいのは「答えがない」ところ。
あくまで出された課題に対してどう考えるかで、行き着くところが変わってしまうので悩ましいんです。
これは私の試験で実際に作図のもとになったエスキス。
日建学院のほかの受講生のエスキス用紙を見せてもらったら、もっとぎっちり書き込まれてたりしたので、こんなんで作図してたの?というレベルのものかも。
ということで、これをもとに私も今年の図書館という課題に対して出された設計条件にたいして、どう考えたかというのを簡単に紹介してみたいと思います。
敷地条件
西側道路で北側に駅ということでほとんどの人が西側エントランスを想定したのではないでしょうか。私ももちろん一目見て決断。
悩んだ敷地条件については2種類
北側斜線の制限を受ける中高層住居専用地域
設計課題を見た瞬間感じたのは、「あ、これ日建学院でやったやつだ!」という、小中学生向けの某通信教材のような反応。
そう、中高層住居専用地域なので北側斜線の制限を受けます。
そのため3階部分をセットバックする計画に決定。
10m+斜線勾配1.25なので、3階だけをセットバックすれば完全に無視できるというわけです。
北側の防火上有効な公園
北側の防火上有効な公園ということで悩んだのこれ。
延焼ラインは検討不要
北側斜線の緩和は??
北側からのアクセスは??
まず延焼ラインは不要。
これはわかる。
じゃ北側斜線の緩和は??
道路斜線とか隣地斜線は緩和があるけど、北側斜線ってどうだっけ??と悩みつつ、一番不利な「緩和なし」という条件で設計しました。
そもそも緩和があった場合、公園の向こう側まで行っちゃう?(つまり実質斜線制限なし)とかも考えたけど、それならこの用途地域は条件にしないだろうと。
あとはその公園からのアクセス。
ちょっと悩んだものの、やはり日建学院の講義の中で「指示がない限り境界で区切れ」との教えだった(と認識している)ので、無条件でシャットアウト。
のちに、ツイッターを見ていると一定条件下でアクセスを容認してる受験生も多く心配に。
要求室について
要求室の面積について
今回初めてみたのは、要求室の面積要件。
これまでの◯◯m2程度というものはほとんどなく、◯◯m2以上という要求。
実は私はこれが一番苦手。
1室や2室ならいざしらず、大半がこういう要求だったのは想定外。
逆にそれを見た瞬間に東西方向が7m、南北方向が7m2スパンと8m2スパンに決定。
「3階セットバックで北側斜線無視」という前提条件があったため北側の空きを2mとすれば迷わずこのスパン選べたと思います。
そしてそれがエスキス全体を楽にしてくれることに。
開架スペースどこ?
一番主題となると思われる開架スペースの階の振り分けですが、標準解答例では以下の様子。
標準解答例1…1階に児童開架スペース、2階と3階に一般開架スペース
標準解答例2…1階に児童開架スペース、2階に一般開架スペース
私は2階に児童開架スペースと閉架書庫。そして3階に一般開架スペース。
というのも、一般開架スペースの天井高指定に、一部高天上として3.7mというものがあり、階高を4mで抑えたい私としてはそれが都合が良かったから。
え?なんで4mに抑えたかったかって?
そりゃ受験生ならわかりますよね。階段ですよ、階段…。
1コマで納まるかどうかっていう瀬戸際で、あえて4mを超える必要ないでしょ。
逆にワークスペースや企画展示やセミナールームは1階の外部まわりに配置して、空いたスペースは交流スペース(ロビー)として利用しました。
高天井について
この一部高天井という条件を標準解答例では吹き抜けにしたりして対応してますけど、私は吹き抜けという条件を一切考えませんでした。
もちろん吹き抜けという条件ならそうしたけど、わざわざ床面積を減らしてエスキスの難易度を上げる必要はないかなと思ったから。
オーソドックスに1階と2階を階高4m、3階のみ5mで高天井に対応させました。
書架スペースを東西に持ってきたのはどうだったのか
最後まで気になってたのは、設計条件の左上、一番重要なところに書いてあるこの一文。
「自然採光を活用するとともに蔵書の管理・保存に配慮する」
私は一般開架スペースを3階に持ってきて、かつ書架スペースは東西に振り分けた形状。
一応垂直ルーバーを設けてはあるものの、日が入るスペースに持ってきてたのは最後まで悩みました。
ただ垂直ルーバーへの記述に「日射の遮蔽と書籍の日除けに配慮」と書いた一文に助けられたのかもしれない。
企画展示スペースと荷解き配本スペースとの関連性は?
要求室にある「荷解き配本スペース」。
そもそも配本というワード自体初めて目にした私。受験生の中には配本というワードでブックモビルを連想した人もいるみたいだけど、自分には「配本車=室内の手押し台車」の可能性も捨てきれず悩みました。
が、企画展示スペースの展示品の搬出入にも利用するとのことだったので、おそらくブックモビル(車両)だろうと判断。
にも関わらず標準解答例1の方では動線に配慮されたとは思えないのです。
ちなみに私は配本スペースから企画展示スペースへの動線に「展示品の搬出入に配慮」との記述をしました。(青線)
その他必要な室とは?
条件のなかにもある「乳幼児連れに配慮した室等を適切に設ける」「施設の運営管理に必要な室を適切に設ける」という要求。
これらはどこまで要求しているのか?
勝手にあれこれ追加していいのか?というのはめっちゃくちゃ悩みました。
とりあえず乳幼児といえばトイレとか授乳室といった類はいるだろう。
あとベビーカー置き場もいるかもしれないけど、それは児童開架スペースでいいのか、はたまたメインエントランスとするべきなのかに悩みました。(結論は児童開架スペースそばに)
あと施設管理の面で言うなら事務室は必要だけど、それをエントランスに面して計画するのか否か。
パタパタっと部屋を計画したら、自分のプランでエントランスに面するのは不可とわかったので、エントランスに総合受付という形でカウンターを配置して「セキュリティに配慮」という書き込みで回避。(赤字)
あとは職員用の更衣室とかトイレとか、会議室とか応接室とか。
標準解答例では職員用トイレは計画されてないけど、更衣室は計画されてるので、トイレがあまり遠い位置でなかったらOKだったかも。
エスキスが順調にハマったからこそ合格できた
2級建築士のときもそうだったけど、とにかく私はエスキスが苦手。その反面製図(作図)は大学時代から早かったので、エスキスには結構時間を掛けて訓練しました。
そして毎回ワナが仕掛けられているというこの試験。
今回最大のワナは北側斜線。
というのも、1級建築士の試験はどうしても規模が大きいため、北側斜線に該当するような用途地域を課題にしないという都市伝説があったから。
そして2つ目は東の駐車場からと北の公園からのアクセスをどう考えるか。
試験が終わってトイレで他の受験生と「南側からのアクセスって取りました?」って聞いたところ「取ってない」とのことだったので、取るのが正解か不正解かはわからないけど、何かしら影響した可能性もありそう。
そんな条件を経て、とにかくエスキスがうまくハマってくれた。一番苦労したのは1階の管理ゾーンと2階かな?
それでも他の人がエスキスしてる間に記述も書いていけたし、精神的な余裕があったはずなのに…致命的なやらかしが複数。それでも他の人が一番ペースを上げて書いてる間には致命的な欠陥の訂正もできたことが合格への道になったかなと思ってます。
でも試験がこのまま順調に終わったかというとそうではなくて…?
次の記事では、作図中、しかも割と後半に発覚した一発アウト級のやらかしについてご紹介したいと思います。