大統領閣下、レクのお時間です!~テキストベースRPG"Suzerain"の紹介・レビュー~
まずは概要をば
閣下、まずは大統領就任おめでとうございます。
"Suzerain"は、冷戦期の東中欧~中央アジアを思わせる環境下におかれた、政情不安のソードランド共和国の大統領となって、閣僚や著名人との会話を通して国の舵取りをしながら、再選を目指すゲームです。
低迷する経済の浮揚と独裁政権の色を残す憲法の改正を世論は望んでいますが、それに向けて閣下は資本主義経済の完成と計画経済への逆行、いずれを選んでも構いませんし、民主的憲法どころか非常時を宣言して更なる独裁憲法の成立の道を歩むこともできます。
閣下は「大統領」なのです
さて、国の舵取りをして国際社会という荒波を泳ぎきる、と聞くとParadoxの"Victoria"やEversimの"Power & Revolution"のような経済・地政学ゲームであったり、PopTopの"TOROPICO"のような箱庭シミュレーションを思い浮かべるかもしれません。
しかし公式がシミュレーションではなくロールプレイングを掲げている"Suzerain"では、数値とにらめっこすることはできません(日本語圏のジャンル分けだと"テキストアドベンチャー"というべきかもしれません)。
閣下が把握している数値というのは、画面左上の、国家予算とご自身の個人資産、経済指標だけであり、閣下を取り巻く情勢は行政機関から提出されるレポートや国内の新聞報道、そして「国の概要」タブから伺うことができます。
さらにプレイ中にはしばしば閣僚や政財界の有力者との会談パートが設けられ、この後行われる決断の背景や提示された選択肢がもたらす結果というものが大まかに聞き出せるようになっています。
閣下はここまでで得られた情報を総合したり、政策の一貫性をとるか勘案した上で、政策判断を行います。実務は判断の後大統領からは窺えないところで行われ、結果はやはりレポートや会談、「国の概要」タブを通して分かる形になっています。
政財界の人間模様は多彩であり、マルーンパレス(大統領宮殿)、沿岸のリゾート都市の個室、親友の別荘、経済都市の高級レストラン、はたまた隣国の首相官邸…様々な場所に閣下は足を運ぶことになります。
会話相手は閣僚や政財界の有力者なので、政策や政情のお話というものも行われます。通商条約や軍事同盟の交渉は重大な局面ですし、地方視察から政策方針を見定めるのも大事なお仕事です。圧力をかけてくる守旧派とオリガルヒや触れてほしくない質問をしてくるメディアと厄介な相手も盛り沢山です。
しかし人間、そればかりで生きているわけではありません。人生相談をされたり、投資話を持ちかけられたり、身の上話をしたり。プレイを進めたり、違う政策方針で再プレイをしていくと、乗り越えた人生の荒波や人となりが見えてきて、厄介な相手も単なる障害以上の思い入れが出てくるものです。
最初の任期はチュートリアル
ここまでのレクを通じて「このゲームはややこしそう」とお思いになったかもしれません。それは間違いではありません。地方や国の概要とそれらが抱える問題、イデオロギー対立と党派の代表…。これらを、新聞を斜め読みできる程度の政治・経済・社会知識を持った上で、頭に入れていかなければならないのですから。もちろん、画像でチラ見せしています、ワンクリックで開ける「辞書」は大きな頼りになるので、使い倒していきましょう。
結局のところ、初回プレイはチュートリアルと思うのがいいでしょう。Xにアップされているレビューを見ても、皆さん初回は憲法改正に失敗したり、不況に陥ったり、隣国に侵略されて大統領宮殿で死亡したり、汚職が露見して弾劾されたり…それはもう散々なものです。
ただ1つ閣下にアドバイスするのであれば、最初の最初に立てた選挙公約を念頭に、一貫性ある選択を取り続けることです。どっちつかずの選択肢を取り続けていくと、目で見える成果というものは出にくくなりますし、敵でも味方でもない人々を増やし続けることになります。
ご家族も大事にすることです、閣下
"Suzerain"は大統領のロールプレイであるということは、閣下にはもちろんプライベートの時間というものがあります。
閣下は、在学中に知り合ったファーストレディのモニカ夫人、大学受験を控えた長男フランク様、小学生の娘ディアナ様の4人家族の大黒柱です。また副大統領のペトル・ベクターン様は家族ぐるみの付き合いをする学生時代からのご親友であるとか。
特筆すべきなのは、過去にはソードランド女性連盟のキャンペーン・パートナーを務めた奥様でしょう。ファーストレディになったことでモニカ夫人は、ますます女性の社会進出の旗振り役になることを望んでいます。保守派の与党出身である大統領閣下の立場上、閣下ご自身が夫人のフェミニズム的な理想を応援するかはよくお考えになるべきですが、夫、そして家庭人としては応援したいと思うのが当然の心理だと拝察します。
また、ゲーム開始時には大統領就任前の略歴を選択するプロローグがあり、閣下の生まれであったり就任までに為した行動は、他者からの印象や家族との関係に反映されています。
任期の後も人生は続きます
さて大統領閣下。落選であれ再選であれ、大統領の任期が終わっても人生というものは続いていきます。プレイすることはできませんが、その後の人生はエピローグとして描かれています。
囚人として一人寂しく生涯を終えるのか、家族と温かい家庭を築くのか。楽隠居するのか政界に関わり続けるのか。在任中の選択は後年の生き方に大きく関わってくるでしょう。
また後世の歴史家の評価として、治世の結果が最後に表示されます。民主化・民営化改革を進めたリベラル派と捉えられるか、国民の期待に反し独裁政権を築いたのか、はたまた徹底的な中道派だったのか。閣下はどのように評価されるのでしょうか。
では、閣下。レクはここまで。またマルーンパレス(大統領宮殿)でお会いしましょう。
A Morgna wes core, vectern sis da!
朝は来る!勝利は近い!
(革命期に生まれたソードランド語の成句)
真面目で簡単なまとめ
Suzerainってどんなゲーム?
政情不安の中堅国の大統領として国を導くゲーム
大統領になりきるゲームブック※のようなプレイフィール(ジャンルはテキストアドベンチャーやロールプレイングが近しい)
国際・国内政治や地政学、政治史へのゆるい関心とほんの少し知識が必要
※ゲームブック: 読者の選択によってストーリーの展開と結末が変わるように作られ、ゲームのように遊ぶように構成された物語本。ひとりで遊べるTRPGと考えてよい。
Suzerainをおすすめできる人
歴史の教科書や新聞を読み物として楽しめるあなた
架空史を考えながらも結局「荒唐無稽だろ」と納得するあなた
ここ数年の国際政治の激変に「現実は小説より奇なり」と困惑しているあなた
(でないと、現実に引き寄せての理解ができず、退屈で何をやっているのか分からないゲームに終始してしまう)
日本語化MODとバージョンの紹介
このゲームは日本語対応していません。Suzerainは相当量のテキストのかたまりですから、メーカーであるTORPOR GAMES(拠点: ベルリン)は英語以外のローカライズは予定していないと表明しています。
しかしありがたいことに、ブリッツ(@blizcavalier)さんが日本語化MODを制作してくださったため、XUnity Auto Translatorを使わなくても日本語のままでゲームを楽しむことができます。
とはいえ、Suzerainは今年の7月に大型アップデート「2.0 "AMENDENT"」を迎え、大ボリュームのテキストが追加されています。2023年10月現在、氏によれば2.0アップデートについては翻訳中ということなので、MODは旧版にしか適用できません。(同年12月現在翻訳済・詳細は【追記】へ)
旧版については[1.9 Legacy]として2023年末までβとして公開されているため、MODはこちらをダウンロードして適用しましょう。以下は[1.9 Legacy]のアクセス方法です。
steam「ライブラリ」を開く
"Suzerain"を右クリックし「プロパティ」を選択
「ベータ」タブへ移動
プライベートベータにアクセスコード「hsuarchive1954」を入力
"legacy1.9"を選択
【追記】日本語化MOD ver2.0対応
ブリッツさんの尽力により、氏の日本語化MODがVer2.0に対応しました!
ダウンロード先とインストール手順については、上記noteを参照してください。なお、noteでは記事単体に100円からサポート(寄付・カンパ)ができますよ。
おまけI: 『全体的に何とかなるSuzerain』の紹介
さて、ここまで読んでいただいた中には過去の私のように「ゲームレビューやWiki読むのは好きだけどプレイはしない/できないな」という方もいらっしゃるでしょう。そんなあなたにお勧めなのが、やはり実況動画。ゆえぴこさんの『全体的に何とかなるSuzerain』シリーズ(23年12月現在更新中)を見てほしい。
ゲーム実況パートの脱力具合とストーリーパートのシリアスの配合が絶妙であり、自作の可愛らしいキャラモデルとこぎみよい会話を楽しんでいるだけで20分があっという間です。ソードランドの国内情勢や国際情勢には適宜注釈が入る上、たまに解説パートを設けながら進行していくので、プレイ前とプレイ後どちらも楽しい動画です。
私個人は以前から、氏の「ゆえぴこ劇場」や時事ネタ満載の動画のファンでしたから、Suzerainプレイ後投稿が開始された際は大変喜びました。面白かったらぜひ過去の動画を見てみてください。
おまけII: "Suzerain Universe"の紹介
"Suzerain"を制作する上で、TORPOR GAMESはかなり濃密な架空世界を設定しました。
開発中である"Suzerain"の"The Kingdom of Rizia DLC"の舞台、立憲君主制国家である"リジア王国"は"レスピア共和国"を挟んで"ソードランド共和国"の南に存在しますが、"Suzerain Universe"は更に東西南北に広がっています。
ゲーム中の悩みの種である少数民族"ブルディッシュ人"が居住するブルジア地域についてもその歴史を紐解けば、ソードランド王国初代国王が権威を確立するために隣国ヴェーレンに外征し割譲させた土地であり、冷遇されていたブルディッシュ人を同じように冷遇したという事実が存在します。いや、ソード人の自業自得では。ブルディッシュ人は現代のヴェーレンでも差別されているので、トルコ本国のクルド人みたいで可哀そうですね…。
さらに時代をさかのぼれば、辞書中にしばしば登場する"マルキア帝国"はローマ帝国的な立ち位置としてソードランド王国以前の大陸史に大きな影響を与えていました(もっとも、議会の阻止条項と言い、共和国時代の設定はトルコ共和国に近しいところが多い)。特に、別荘として購入できるワイナリーがある都市"エロリー"には、かつて帝都が存在したと明らかになっています。
しかし帝国の末期に中央の支配基盤がエロリーから移ったことでソードランドの人々が自治を開始したこと、帝国の瓦解後にソードランド地域を支配した王国も途中で首都をエロリーから現在のホルソードに移転したことが転機になったためか、ソードランドの国民アイデンティティにはさほどマルキア帝国の影はありません。
さて、ここまでの内容は"Suzerain"ゲーム内の辞書でも読むことができますが、TORPOR GAMESはネット上に"Suzerain Universe Codex"という公式Wikiを作成しています。ゲームよりちょっと詳しい内容や世界地図なども掲載されているので、気になった人は訪れてみてください。
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