陶芸を通して
仕事前の空いた時間、陶芸体験に行ってきた。
そこでわたしは、世界でいちばん大好きな子の輪郭をなぞっていった。
あの子はもうこの世にはいないのだけれど、今もなお、ふとしたときにそばにいる気がする。
その頻度も時が経つにつれてどんどん減り、最近はあまり存在を感じなくなっていたから、きっとわたしのことを「ぼくが常にそばにいなくても大丈夫」って判断してくれてたんだろうなって、勝手に思っていた。
それはわたしにとって、うれしい成長でもあるのだろうけれど、やっぱり寂しくて、いつまでもあの子の部屋を片付けられないでいる。
そんななか、ふと目にした陶芸体験のチラシに「動物」がテーマと書いてあったから、まっさきにあの子を作ろうと思い立ち、応募していた。
丁寧に丁寧に、写真をみながらあの子の輪郭をなぞっていく。
まずは粘土をこね、成形して、縁どっていく。
陶芸体験なんてないから、いくら割と器用な方といえども別にそこまで上手ではなかったと思う。
だけど、あの子の姿が自分の手によって蘇る感覚というか、あの独特な気持ちはほかでは味わったことがなくて。
じんわりと胸があたたかく、切なくなりながら、あの子との思い出を作品に刻むように、黙々と手を動かす。
実はこの陶芸体験、母と一緒に行ったのだけど、お互い一言もしゃべらなかった。
ただひたすらに、目の前の生み出したそれを慈しむように、成形していく。
それが終わると、着色の時間がやってきた。
あの子はわりと模様が独特だから、それが再現できるのかしら、なんて思いながら、色を乗せていく。
少しずつ、少しずつ、あの子に近づいていく。
それは決してあの子自身ではないけれど、確実にわたしとあの子のかけらがつまった作品になっていく。
気づけばあっという間に体験は終了していた。
本当は、この余韻にずっと浸っていたかったけれど、もう仕事へ行かなければならない。
仕事は好きだから、職場に行くこと自体は全く苦じゃない。むしろ少しでも長く、早く働きたい。
それでも今日は、あの子との時間をもう少し味わっていたかった、なんて思いながら、母と別れを告げて職場への道を歩き出した。
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