世界ってこんなにも優しいんだ #5

式が始まると、そこからはあっという間だった。
いつの間にか登壇し、証書を受け取り、学長に礼をし、階段を下りる。
だけど、別に「無」だったわけではない。
あー、めっちゃカメラ向けられてる〜という感覚は少しあった。
そう。
新型コロナウイルス。
わたしたち学生の楽しみを奪ってきた、憎きウイルス。
こやつのせいで、わたしは大量のカメラ、特にビデオカメラを向けられていたのである。
卒業生以外は会場に入ることができず、主に親のためにYouTubeで生配信していた。
だから、その画面をわたしの親友のお母さんがスクショしまくってくれていて、のちほど大照れすることになる。

そうやってレンズに囲まれながら過ごしたものの、全く緊張することなく卒業証書授与式が終了し、そのまま学科ごとに分かれた。

学科長から証書を再度受け取り、写真も撮られるというわたしにとっては本日二度目のイベントをクリアし、先生方の話を聞いて集合写真撮影へ。
その間もさまざまな人からお褒めの言葉を浴び、もはや慣れた態度でにこやかに切り返す。
このように書くと、まるでわたしが絶世の美女に生まれ変わったかのように錯覚されるかもしれないが、別にそうではない。
単に、「袴」が似合うだけだと思う。

学科での集合写真や、ゼミでの集合写真を取り終えると、完全に解散の流れとなった。
ああ、ついに終わったんだ。
式前に会えていなかった子たちからも撮影に誘われ、何枚もの記録をとっていく。
あちこちから、シャッター音が鳴り響き、卒業を歓迎するかのような真っ青な空と爽やかな風を浴びながら、ふと思った。

やばい。
本当にやばい。
わたし、これからどうするんだ?
学生じゃなくなって。
結局、ぎりぎりまでわたしのことを待ってくれていた内定も蹴って。
行政の嘱託職員の面接は何ヶ所か受けたけど、受かるのか?

でもなぜだろう。
そうした不安を抱えているわりには、どれかは受かる気がしてしまっていた。

というより、受からないわけがないと思っていた。
だって、これが受からなかったらわたしの居場所はどこにもないことになってしまう。
そんなの、ありえない。
そうなってしまったら、社会から溢れてしまうじゃないか。

そうやって、どこかで奢り昂っていないと、きっとわたしの精神はもたなかったんだと思う。
いまならわかる。
その枠が非常に狭く、よほどじゃないかぎりは大卒の人間で、内定を獲得したくせに、今さら「一般企業より、行政で自分の能力を役立てたい。それが夢だった」などとうそぶくヤツなんかとらないことを。

だけど、当時のわたしは、そんなあたりまえのことをみえないようにしていた。
気づかないようにしていた。
これだけ辛い目にあってきて、乗り越えて、大学は死ぬ気でがんばって、いまも苦しい心境のなかもがきながらも前を向こうとしている人間を、きっと社会は見捨てないと。
そう思い込むしか無かった。

だけど当然、そんなうまい話などあるわけがない。

こうして、わたしのニート生活は幕を開けた。

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