【3分で読める】「ドラマツルギー/Eve」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【最新MV公開ありがとう】

【あらすじ】
男は若さを前に、苛立ちを覚える。かつての自分に重なるからだ。
心のどこかで「ドラマチックな展開」を期待している自分は、いつまで経っても”愚かな演者”でしかない。

舞台で踊らされているうちに、”自分”がわからなくなってしまった。
きっとこんな演目、誰も観に来ちゃくれないだろうな。

鉛筆を持つ手が止まる。単純な四択問題ではあるが、だからこそしっかり問題を吟味しなければ、正答にたどり着けない。俺は必死に、参考書の内容を遡った。

時計の針を確認する。
12:53。試験終了まで残り7分。
集中しろ、と思うほどに、ネガティブな考えから抜け出せなくなる。まるで砂地獄のようである。

塾講師からは「とにかく、分からなくても回答用紙を埋めろ」と言われていた。しかし、それをするにはまだ早計すぎる。試験初日の不調を取り戻す為に、一問でも多くの正答が欲しいのだ。

ギリギリまで粘り、3分前になったらマークシートを埋めよう。
そう思っているうちに、残り5分。

時間は俺を待ってくれない。時間さえあれば…
あと10分あれば、きっと全問解けるのに。

残り4分。

くそ、ヤマが外れたのがいけなかった。慎二との勉強会が無駄だったんだ。あいつは早々に私立大学に合格したからいいよな。俺は、このままだと浪人確定だ。

残り3分。

結局、あれから一問も解くことが出来なかった。
諦めてマークシートをランダムに塗り潰していく。手が震えて、枠に上手く黒丸を収めることが出来ない。頬を一滴の汗が伝う。

何かが折れる音がした。
それは、俺の手元から聞こえた。
なにやら黒いものが机を転がって、止まる。
折れた鉛筆の芯だった。

慌てて予備の鉛筆に手を伸ばす。
まだ回答していない問題がいくつか残っているのだ。
「とにかく、分からなくても回答用紙を埋めろ」講師の声がリフレインする。

予備の鉛筆を手に取った瞬間に、試験終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

ーーー

「だから言ったろ!お前の学力じゃ受かるはずないって!」

思わず口調を強めてしまう。息子は露骨に目を合わせようとしない。俺との対話を意識的に拒んでいるとしか思えなかった。
大学受験真っ只中の息子は、今年のうちに10校もの試験に挑んだ。手元にあるのは8校分の結果。いずれも”不合格”の文字が記載されている。残り2校の結果は届いていないが、本人曰く、望みが薄いらしい。

「いつまでそう黙っているつもりなんだ!?塾にも行かせてこの結果か!?」
「…」
「願書の提出だってタダじゃないんだ!思い出受験にされちゃ困るんだよ」

息子は相変わらず、私の言葉に耳を傾けようとしない。
いつからだろうか。息子との会話が成立しなくなってしまったのは。息子がそのような態度を取るようになってから、私も声を荒げて話すようになってしまった。

努力しなくたって、その時がきたら自然と能力が発揮出来ると勘違いしていた時期。息子は、当時の私にそっくりだった。
いわゆる、「まだ本気を出していないだけ」状態。それは単に、若さと経験不足からくる過信と想像の欠如。腹立たしい感情に駆られるのは、きっとかつての自分と重ねて見えてしまうからだ。

私はその場から離れて、洗面所へと移動する。一度顔を水で洗って、怒りを抑えるべきだと思った。

鏡に映る自分の目を見る。真っ黒で、丸い眼球。
沢山の黒丸で塗りつぶされたマークシートを彷彿とさせられる。20年以上も前の記憶が、今でも鮮明に思い出せる。最後の3問は、やはり白紙のままだ。

もしあの時、鉛筆の芯が折れていなければ。
もしあの時、母からもらったシャープペンシルを素直に使っていれば。
もしあの時、友達との勉強会でヤマを張らなければ。
もしあの時、ペース配分を間違えなければ。
もしあの時、もっと勉強していれば。

もっとドラマみたいな華々しい人生を歩めていたのだろうか。
息子からも尊敬されるような人間になれただろうか。

水で顔を洗い、再び息子のいるリビングに戻る。
息子が私の方を振り返る。
今息子の目に、俺の姿はどう映っているのだろうか。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
Eveさんが最新MV(LiveFilm ver.)を公開されたばかりで、
「これは書くしか無いだろうっ!」
と思い、文章を書かせて頂きました。

本当はもっともっともっと設定や文章を凝りたかったのですが、これ以上話を膨らませると3分に収まらないと思ったので、泣く泣く省略しました。

ちなみに息子の描写を限りなく少ないのは、皆さんに「息子の心情」を想像して欲しいからです。さて、息子の目に”私(俺)”はどう見えていたのでしょうか?

民奈涼介



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たみな涼介 | シナリオライター/アプリエンジニア
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