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『ザ・ファイブ・ブラッズ』(’20・米)【ベトナム戦争は今も続いている。戦争が生んだアメリカの闇を浮き彫りにするスパイク・リー流反戦映画】

スパイク・リー監督によるNetflixオリジナル作品。化学療法を続けながら撮影に参加したという、故チャドウィック・ボーズマンの雄姿に目頭が熱くなる。

現代のアメリカ。ベトナム帰還兵の黒人男性ポール、エディ、オーティス、メルヴィンの4人は、ベトナムで久々の再会を果たす。彼らがここに来た目的は、かつての隊長で戦死したノーマンの遺骨と、当時彼らが見つけたままになっている埋蔵金の回収だった。高齢の父親を心配したポールの息子デヴィッドも加わり、過酷なジャングルに数十年ぶりに入ることになるのだが…。

スパイク・リー監督作品の中でも最もショッキングな内容と言っても過言ではない1本。
冒頭は当時の戦友4人が冗談を言い合いながら、観光客としてベトナムに再び訪れるシーンから始まるのだが、コメディ・テイスト満載で描かれる。しかし、劇中で起こるとある出来事をきっかけに、そんなお気楽ムードは一変。一気に想像を超えたサスペンスフルな物語へと様変わりする。実際の過酷な戦場での状況と同じく、たった1つの誤った判断から、4人を取り巻く環境が瞬く間に「一寸先は闇」状態へと化していくのだ。

兵役を終えて数十年が経過し、すっかり日常生活に戻っていたはずの4人だったが、いざベトナムの地に足を踏み入れると、戦時中に自分たちが命を投げ出す思いで駆け抜け、陣地に潜伏し続けたあの当時の感情が蘇ってきて、トラウマ体験のフラッシュバックに苦しむことになる。戦闘中の主人公4人と、彼らの上官だったノーマン隊長(演:チャドウィック・ボーズマン)とのやり取りが描かれる回想シーンでは、あえて16mmフィルムを使用して当時の映像の質感を演出。後光が差す中、威厳溢れる立ち姿で熱弁をふるうノーマンことチャドウィックの姿はまさに神々しく、短い登場シーンながらも鮮烈な印象を残している。撮影当時、オーティス役のクラーク・ピーターズは、チャドウィック撮影の合間に中国人の医師に背中を、メイクアップ・アーティストに足をマッサージされている姿を目撃したという。チャドウィックががんに侵されているという事実を知らなかったため、ピーターズはそれが大スターになったゆえの”おごり”なのではとその時は誤解したそうだが、言わずもがなチャドウィックはまさにこの時闘病しながら撮影に臨んでいた。チャドウィックが並々ならぬ思いで臨んだ本作には、非常に深いテーマが描かれている。

本作を通して描かれるメッセージは、”ベトナム戦争は今も続いている”ということ。自分の身を守るためならば、人を殺すことさえも容易くできてしまう極限状態に長くいたことで、主人公たちの中の何かが変わってしまった。その結果、アメリカに帰国した後も本当の意味で家族や他人を信用することができなくなった者、生涯自分の生き方を後悔することになってしまった者…。アメリカが唯一敗戦したこの戦争によって生まれた犠牲の数は計り知れない。戦時下を生き延びた人々たちの心の中には、まだこの黒い炎がくすぶっており、今もなお苦しみは続いている。そして、その炎は、ちょっとしたきっかけでいとも簡単にまた燃え上がってしまう可能性を秘めている。スパイク・リー監督はインタビューの中で、「(この映画を通して)世界中のあらゆる道路になぜホームレスの人がいるのか知ってほしい」と述べているが、それはこうした戦争が生んだ分断や貧困などの闇が、今もなおずっと続いているという事実から目を背けてはならないというニュアンスにもとれる。本作は、スパイク・リーならではの反戦メッセージなのだ。

戦争によって生み出された”狂気”を生々しすぎるほどに体現したポール役のデルロイ・リンドーの狂気的な怪演に戦慄。惜しくもオスカー・ノミネーションはならなかったのが残念だが、彼のキャリアの中でも最も記憶に残る役柄なので見逃せない。

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