Making Sense - Finding Our Way 1-4
A Conversation with David Deutsch
H:最後に、いかに文明を維持していくか、それから、知的な機械の誕生がもたらす危険について話したいと思います。いわゆる「フェルミのパラドックス(フェルミのパラドックス - Wikipedia)」についてはどう思われますか?なぜ我々の銀河系には、我々よりも進んだ文明が存在しないのでしょうか?ひょっとすると、知識が増えることは、実は致命的なことだったりしないのでしょうか?
D:フェルミの問題は、実はパラドックスではなくて、銀河系が非常に古いということが問題なんです。あまりに古いので、その広大さは関係ないのです。例えば、銀河系のどこかに2つの文明があったとして、その2つの文明が誕生した時期のズレが1千万年以下である確率は殆どないんですよ。ですから、もし別の文明があるとしたら、それは私たちよりも少なくとも1千万年以上古い可能性が圧倒的に高く、したがって、その文明は私たちよりも発展する時間が1千万年も多くあったということになる。それだけの時間があれば、私たちのところに訪れてきてもおかしくないですよね。
銀河系内には無数の星が混在しています。そのなかの、ほんの数個の近くの星を植民地化すれば、そのような星が銀河系の中で増えていくでしょう。そうだとすれば、その植民地の証拠があるはずなのですが、証拠がない以上、植民地は存在しないということです。
これは問題なんですが、我々はまだ様々な可能性を理解していないんですよ。例えば、電波を使うのか?探査をして何がしたいのか。彼らの目的は何なのか?このすべての場合において、私たちは彼らが私たちと似ていて、同じようなテクノロジーを使うとを想定しています。もしその想定が一つでも違っていれば、「もう彼らが私たちの星に訪れてきていてもおかしくない」という考え方が間違っているということになる。もう一つの可能性は、少なくとも銀河系では私たちが最初の知的生物だということです。この可能性が正しいのか、そうでないのか、そう結論付けるにはいったいどのような要因が影響するのかということはあまりわかっていないと思う。正しくないと思えるのは、彼らが私たちとは異なる知識の創造方法を持っているということです。なぜなら、そう考えるということは、彼らの物理は私たちの物理と大きく異なるということになる。つまり、超自然的な存在とすることになるからです。もうひとつの可能性は、ほとんどの社会が自滅してしまうということです。しかし、それが常に起こるというのは、とても考えにくい。
H:ニック・ボストロムが、「グレート・フィルター」と彼が呼んでいるものについて書いています。それは、すべての高度な文明がいずれ計算を発見し、知的な機械を作り、それが何らかの理由で致命的な結果をもたらすというものです。あるいは、他に何か致命的なフィルターが存在し、そのせいで知的な宇宙生物の証拠がないのかも知れないと書いています。
D:でも、そういう宇宙からの複雑な機械や生命体に遭遇することを予想しているわけですよね?彼らが家でクリップを作るのに夢中になっているのでなければ、とっくにここに来ているはずです。私たちが彼らにまだ遭遇していない、よりもっともらしい理由は、ほとんどの社会が静的な状態に落ち着くということです。私たちの考える静的な社会は、過去の静的な社会によって規定されたものであり、現在の私たちの視点から見れば、過去の静的な社会は酷いものです。例えば、物質的な福祉が今の私たちの100万倍もある社会があるとします。そして、その社会がなぜか儀式的な宗教へ落ち着いてしまいます。その宗教では苦しむ人は誰もいないのですが、すべての人がいつも同じことを永遠に繰り返しているのです。私はそんな社会は地獄だと思いますよ。しかし、あなたがおっしゃるように、異なる生き方を見出せない社会もあるのでしょう。例えば、オックスフォードに住んでいて、アフリカのことを知らないというようなことです。そこそこ幸せで、もっと大きな幸せがあることを知らないかもしれない。そうだとすれば、そのままでいるでしょう。
H:そうですね、幸福の形にはさまざまな状態があって、他にもっと幸せな状態があることを知らずに、局地的なな幸せに自分が落ち着いていることもあると思います。しかし、明らかに、その他にもあまり幸せとは言えない状態に落ち着いてしまう場合もあると思います。例えば、その星に住む人々が最高の麻薬に溺れていて、あたかも高度な文明における幸福を満喫しているような状態にある場合とか。つまり、彼らは苦痛がなく、何をするにも大きな変化がない静的状態を発見したのです。彼らは、ある種の知識によって確保された至福の宝庫にいるのです。いわゆる、オルダス・ハクスリー(すばらしい新世界 - Wikipedia)的な終末です。
D:まず、そのような文明は、いずれ近くの超新星爆発か何かで滅んでしまうでしょう。何千万年、何億年という単位で見れば、文明が何も対処せずにいたら絶滅してしまうような原因はいくらでもあります。もし、その文明が超新星を自動で抑制するような装置を作ったりして、彼らが絶滅しないように対処していたとしたら、私たちはそれに気づくはずです。一方、超新星爆発の危険性を知らずに絶滅してしまうというのも考えづらいと思います。なぜなら、超新星爆発の危険を知らないような文明のレベルで、どうやってそのような素晴らしい快適さを手に入れるに至ることができるでしょうか?
それから、更にもう一つの可能性があります。これに関してはSF小説を書こうかと思っているんです。とても恐ろしい話なのですが、ここでは話すのはやめましょう。
H:怖そうですけど、サプライズに取っておきましょう。
それでは、最後にもうひとつ質問です。今まで生きてきた中で最も賢い人は誰だとお考えですか?もし、宇宙人と対話するために、過去または現在の人間で最も賢い人を一人指名するとしたら、誰を推薦しますか?
D:これは、「誰が最も人類の知識に貢献したか」「誰が最も多く創造したか」という質問ではなくて、むしろ、「誰が一番IQが高いのか」、という質問ですか。
H:確かにそれは区別して考えるべきですね。非常に頭がよくて、我々の知識に誰よりも貢献した人がいたとしても、彼らがどう考え、何を成し遂げたかを見ると、例えばジョン・フォン・ノイマン(ジョン・フォン・ノイマン - Wikipedia)のような人ほど頭が良かったわけではないという場合もありますね。私の質問は、フォン・ノイマンのような優れた脳の持ち主の場合の質問です。
D:それは脳ではなくて知性ですね。つまりハードウェアではなくソフトウェアという意味です。その場合、おそらくリチャード・ファインマン(リチャード・P・ファインマン - Wikipedia)でしょうね。もちろん、物理学での功績などを考慮したら、アルバート・アインシュタインには及ばないけれども、私はファインマンだと思う。
ファインマンには一度だけ会ったことがあります。皆からは「ファインマンのすごい話はよく聞くだろうけど、彼だって所詮人間さ」と言われていました。でも率直に申し上げると、彼は私が想像した通りの人だった。彼は本当に素晴らしい知性を持っていました。それ以外の人たちとはあまり会う機会がありませんでしたし、アインシュタインにも会ったことはありませんが、私の印象では、彼は何か変わった人だったような気がします。それから、業績という点では、カール・ポパーを加えるべきですね。
H:もう少しファインマンの話を聞かせてください。彼と一緒にいるのはどんな感じでしたか?彼のどんなところが独特だったかを教えてください。
D:まあ、頭の回転がとても速かったですね。大学という環境では同じように頭の回転が速い人はたくさんいるのかもしれないですが、物事を理解するために創造性を直接応用することができる能力は稀有だと思います。どういうことかと言うと、当時、私は量子コンピューターのアイデアを考え始めたときに彼と会ったんです。現在の量子アルゴリズムと呼ばれるものの原型を構築したところでした。とても単純なものではありましたけど。現在では、ドイッチュ・アルゴリズム(ドイッチュ・ジョサのアルゴリズム - Wikipedia)と呼ばれています。現在のものと比べたら、当時の私の研究は大したものではありませんでしたが、当時何か月もかけて研究した結果でした。そして、私は彼に量子コンピューターの話をし始めたんです。彼はとても興味を持って、「それで、そのコンピュータで何ができるんだい?」と訊きました。私は「量子アルゴリズムについて研究しているんです。例えば、異なる二つの初期状態を重ね合わせると…」と言うと彼は、「それなら乱数が出るだけだ」と言ったんです。私は「そうなんですが、干渉実験をすると…」と続けようとすると彼は、「いや、やめろ、やめろ。私に考えさせてくれ」と私を遮りました。そして、彼は急いで黒板に向かい、ほとんど何のヒントもないまま私のアルゴリズムを完成させたんです。
H:それは何か月間くらいの研究の量ですか?どれくらいの量をその場で黒板の上で再現したんですか?
D:どうでしょうね。私の少ない説明がどれほどのヒントになったかは分からないですが、ざっくりとした目安としては、数ヶ月くらいといったところでしょうか。わかりやすく言うと、とにかくとても驚いたということです。当時の私は既に非常に頭のいい人たちと交流していました。それでも、経験したことのないような驚きでしたよ。
H:当時のあなたの上司はジョン・ホイーラー(ジョン・ホイーラー - Wikipedia)だったんでしたっけ?
D:そうでうすね。
H:「凡人」ではなかったですね。
D:そうですね。
H:素晴らしいお話ですね!質問して良かった。またこのようにお話ができたら良いなと思います。あなたは素晴らしいビューティフル・マインドを持っていらっしゃる。
D:ありがとうございます。またよろしくお願いします。