目の前のことを大事にする視点と、俯瞰して見る視点のバランス
『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』という本を読んだ。ラジオ番組で紹介されていて、タイトルにピンとくる感じがしたので、読んでみたくなったのだった。
「フード左翼」と「フード右翼」は著者の造語で、つまり、食の好みが、人々の政治的とも呼べる姿勢を反映しているのではないか、との指摘だ。左翼、右翼といっても、いわゆる政治の世界のそれと完全に一致しているわけではないけれど、昨今の食の流行や好みを分類して並べると、あるまとまりができて、その両端を右翼、左翼と呼んでいるのだ。
具体的には、まず横軸に地域性をとる。左端がローカル主義、右端がグローバリズム。そして、縦軸には健康志向をとる。上に行くほど健康志向が強く、下がジャンク志向。このマトリクスで左上に集まるグループをフード左翼、右下をフード右翼と呼んでいる。
おもしろかったのは、食をめぐるトレンドが俯瞰できる点だ。マクロビ、ローフード、Kinfolk、冷えとり靴下、アリスウォータースといったフード左翼的キーワードから、メガマック、メガ牛丼、ラーメン二郎を愛好するジロリアンなどフード右翼的なキーワードまで、「それ、ちょっと気になってた」という言葉が網羅されている。
従来の食をテーマにした本は、たいていフード左翼的かフード右翼的に偏っている印象がある。食についての思想的な立場がまずあって、それを推進するか反対するかという話になりがちだからだろう。この本はその両方のサイドを、引いた視点で眺めさせてくれるユニークな視点の本だと思った。
「ええ?」と思わずソファーからずり落ちそうになったのは、執筆を終えた著者自身の変化だ。著者の速水さんはもともとフード右翼よりの人間だった。ちょっと気取っていて理想主義的で怪しげなフード左翼の世界にツッコミを入れようというスタンスで、この本は書き始められている。それが取材を重ねるうちに影響を受け、最終的に速水さんはフード右翼からフード左翼に「転向」するのだ(不完全ではあるが、と書いているけど)。これはちょっと意外だった。
高齢化社会について書かれた後半部分も興味深かった。フード左翼的に食にこだわる人は、老人になったときにどうするんだ?という問いかけだ。
高齢化社会になると、食事はセントラルキッチン方式で生産される大量生産のものになる。フード左翼の人に共通するのは、大量生産的に生み出される食に反対することなので、これはフード左翼的な食生活とは逆の方向性を持つ。自分の親などを見ていても、かつては食にこだわっていたかもしれないけど、歳をとってくるとどうでもよくなってくるのか、フード右翼的な食生活になってきている気もする。
この本について同居人と話したら、同居人は現実にいま自分が何を食べるかを最重要に考えていて、一方、自分は全体の中でどういう位置にいて、どういう方向に向かっているのかをより強く気にしていることがわかった。目の前のことを大事にする視点と、俯瞰して見る視点。このバランスを意識していきたい、と、そんなことを思ったのだった。
『フード左翼とフード右翼』
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