日本では最近まで禁欲的食事観があった

『世界の食べもの――食の文化地理』という本を読んだ。民俗学者の石毛直道さんが、世界の食文化について書いた本。最近は食べものについて興味が出てきていることもあって、おもしろく読んだ。

でも、10年前の自分が読んでおもしろかったかというと、よくわからない。外国を旅行して、食べものについての本も少し読んで、同居人がいろいろな料理を作るのを見ている今だからこそ、興味深く感じられるのだろうと思う。

読みながら、食についての歴史や文化になるほどと思うことが多く、知っていることが増えるのを心地よく感じた。なるほど、と思うためには、それなりの知識や経験の積み重ねが必要なのかもしれない。

古くに発表された内容をまとめなおした本のため、新しい情報は含まれていなさそうだったけど、でもたとえば「エネルギー源としてほとんど価値のない野菜を畑で育てるのは文明社会だけでのことである」とか、「日本の寿司は最近の料理で、握りずしが全国に広まったのは20世紀になってから」だとか、ふだん接している食べものについて、見方が変わる話がいろいろあった。

おもしろかったのは、「日本では最近まで男性が食べものについてとやかく言うことは、はしたないとされる禁欲的食事観があった」という話。まさに自分はこういう観念から、食については興味なし、という態度だったのかもしれない。それに対し、中国では昔から食の快楽が肯定されており、食べものについての知識や技術をもつことは恥ずべきことではなく、むしろ教養の一部だったそうだ。

食文化を研究する石毛さんが、この本を通じて日本人に言いたいのも、このことなのかもしれない。

世界の食べもの

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