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特別な注文【すけべ怪談アフター2024採用作品】

学生時代に知り合った友人で、特殊メイクの業界に進んだ男の子がいます。

彼は、よくテレビで見るような”俳優さんの顔を変える特殊メイク”の他に、手術シーンやホラーなどで使う体の一部や、人間の代わりに落とされたり轢かれたりする人形を作るのも得意なようでした。
昔、彼の個展を見に行ったことがあるのですが、何体か展示されていた等身大人形は、呼吸をしているのではと思うほどリアルで、肌の生々しさと美しさに圧倒されたのを覚えています。

大人になってからも、私と彼は年に何度か仲間の集まりで顔を合わせる仲でした。しかし、何年か前に「あいつ急に羽振りが良くなったけど、なんかヤバいことしてるんじゃない?」などと噂になった頃から彼が集まりに参加することは無くなりました。


そんな彼と飲み屋でたまたま再会したのが、今から半年前のことです。
久しぶりに見る彼は別人のように太っていて、持ち物も全て高級品に変わっていましたが、話し始めると昔と変わらない変な笑い方で、それがとても懐かしく感じたのを思い出します。

話によると、彼は我々と会わない間、たまたま個展を見に来た大きな会社の会長と名乗る人に作品を気に入られ、その会長から直接依頼を受けて人形を作って暮らしていたのだそうです。

私が「いくら特注って言っても、そんなしょっちゅう入るもんでもないだろうし、そこまで儲かるもんなの?」と言うと、彼は「それがね、ひっきりなしに注文してくるの。値段はまあ、口止め料も入ってるから」と言いました。
「口止め料?」
詳しく聞かせてくれと言うと、彼は意外にもあっさり話してくれました。

彼が作っていたのは、大会社の会長としては世間にも家族にも知られたくないような、特殊な趣味の人形だったそうです。

「初めに話を聞いたときは、俺もそこら辺のリアルドールとかで間に合わせりゃ良いんじゃないかと思ったよ。けどさ、後になって、それじゃ駄目な理由がわかったんだ」

会長が最初に注文したのは、普通の女性が少し変わったポーズで縛られているだけの等身大人形だったそうです。
試しにひとつ作らせて、仕上がりや彼の人となりを確かめたのかもしれません。
納品してすぐに入った2体目の注文内容を見て、彼は事情を察しました。

「最初はただの特殊なSM趣味だと思ったんだよ。実際、人間相手にもやってたんだろうし。だけど、そのうち"相手が人間じゃできないこと"がしたくなったんだろうね」

会長が注文する人形は、オーダーの度にどんどん人の形ではないものになっていきました。
生きた人間では到底ムリなかたちに捻じ曲げられたり、ちぎれるほど細くなるまで縛られたものになった後、体のあるパーツが異様に大きかったり、そのパーツの数が多かったり、ついてる場所が違ったり、動物のパーツがついていたりとグロテスクさが増していき、最後は大きさも2メートルを超えるほどになったそうです。

「作ってて気分が悪くなったし、こっちまで頭がおかしくなりそうだったけど、その分いい儲けになったよ。けど、それももう終わりだ」
「終わり?断ることにしたの?」
「いや、会長が亡くなったらしい」

どうやら会長は、わざわざ倉庫のような隠れ家を建てて、そこに全ての人形を保管していたらしく、遺品整理の際にそこを見つけた家族が彼のところに連絡してきたのだと言います。

「もうひと財産見つかるかと思っただろうに、あんな地獄みたいなもん見せられて、さぞかし驚いたろうね。ご丁寧に使用人が直接俺の家に手紙を持ってきたよ。『これは我々とあなたしか知らない事です。誰にも知られずに処分したいので来てください』だってさ。俺が読み終わるのを確認して、手紙を回収していく徹底ぶりだ。流石だね。…だから明後日行ってくるわ。少しずつ持って帰って溶かすしかないね。まあ、処分料ぐらいはくれると思うけどさ」

そう言っていた彼と連絡が取れなくなり、半年が経ちました。
「処分」て何のことだったんでしょうね。


【あとがき】
リアルな人形を作る人のところには、稀に奇妙な注文が入ることがあるらしいですね。
私も球体関節人形を作っていたことがあるので、その手の話を聞くことがありました。
そんな奇妙な注文をする人がある日突然亡くなったら、さぞかし遺品整理が大変だろうと思ったところからできたお話です。

ただの人形作家ではなく特殊メイクの業界に話を振ったのは、人形の注文に「血が出るように」「内臓が…」というのを入れようと思って、流石にやり過ぎかと止めたからです。
配信中のコメント欄の反応を見て、やめといて良かったなと思いました。

私はホラーや怪談に耐性が強いので、自分の書いてるものが怖いかどうかも判断できないままこれを書いていました。
そのため、すけべ怪談の本編配信で不採用だった時に「そうか、怖くなかったんだ。やっぱり怖いが分からない人間には怖いものは書けないんだ」と思ってガッカリしていたのです。
でも、力一さんや見てる方のコメントから察するに、結構怖く書けてたのかな?
「面白かった」と言って下さる方もいて、安心しました。

採用されなかった去年一昨年は、悔しくて「怪談の勉強する!」と言って怖い話を聞いたり読んだりしました。
その甲斐あってか今年は採用頂き、また書きながら自分の中で「今まで書けなかった書き方ができた」と思える瞬間があったりもして、ちょっと成長できたのかもしれないと嬉しく思っております。
ありがとうございました。

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