アウトサイダー〜渋谷で公開された青春映画が若い世代の間で伝説になった
『アウトサイダー』(The Outsiders/1983年)
真っ白なノートに主人公ポニーボーイがそんな言葉を綴り、夕陽に染まったスクリーンから「Stay Gold」が流れ始めた時の感動を、今でも覚えている。
ティーン主役映画=脳天気なコメディ路線が主流だった時代に、「硬派でまともな青春」が突然目の前に映し出されたのだから。1983年8月、夏の終わりのことだった。
その年の一番の話題は、春に開園したばかりの東京ディズニーランド。まさにアメリカ文化の象徴と言えたこの空間に、大人から子供まで誰もが夢中になっていた。
しかし、 1980年代という新しい時代の中で呼吸する当時のティーンたちが本当に求めていたのは、純真無垢なファンタジーよりも「そこにあるリアル」だった。
本国アメリカでは、社会の矛盾やどうしようもない生活環境に戸惑いながら生きる自分たちの気持ちをストレートに表現するムーヴメント、“YA(ヤング・アダルト)”が台頭していた。
それは似たような環境におかれていた、日本の都市部の中高生たちの心情にも当然シンクロした。
この映画『アウトサイダー』(The Outsiders/フランシス・フォード・コッポラ監督/1983年)に登場するのは、すべて10代。
ダラス(マット・ディロン)やチェリー(ダイアン・レイン)以外は、当時ほとんどは無名役者(アウトサイダー)たち。その中にはエミリオ・エステベスやラルフ・マッチオ、ロブ・ロウやトーマス・ハウエル、そしてトム・クルーズもいた。
舞台はアメリカのスモールタウン。恵まれない環境で生きつつも、仲間たちと明日の希望を信じて生きている“グリース”の少年たち。
敵対する金持ちチーム“ソッシュ”(レイフ・ギャレット他)たちとのトラブルが原因で、物語は思わぬ方向に。主人公ポニーボーイたちは身を隠すのだが……青春は儚く過ぎていく。
彼らはこの映画を機に“YAスター”となり、映画雑誌の人気投票は彼らで独占され、『アウトサイダー』は日本でこの年最も支持された青春映画となった。
そして、スティービー・ワンダーが歌った余りにも美しく、聴く者すべての心を打つ主題歌「Stay Gold」は、レコード化がされないという異例のままラジオ局にリクエストが殺到。それを受けて、日本人歌手(タイロン橋本)によるカバー盤まで発売されるほどの熱気ぶり。
※なお、2013年には、公開30周年を記念してサウンドトラックが奇跡のリリース。「Stay Gold」も収録。1983年当時もしレコード化されていれば、間違いなくBillboardチャートで1位になって、この年最大のベストセラーの一つになっていたはず。
スーザン・ヒントン(映画ではナース役で特別出演)の原作小説も文庫本発行(集英社)されたり、青春映画自体がブームとなって、1980年代を通じて大量に製作・公開されるようにもなった。
さらに特筆すべき点として、街カルチャーへの影響がある。例えば、数年後に起こった東京・渋谷のアメカジチームやセンター街チーム現象はその一つだったのではないだろうか。
仲間意識・ファッション・歩き方まで、まるで映画から飛び出してきたかのような世界が、1980年代後半の渋谷では確かに“上映”されていた。
たった90分の物語が、ある世代を魅了する。
そして、それらが実際に街でヴィジュアル化されて社会現象にまでなったのには、やはりこの映画には、一貫したまともなスピリットが息づいていたからだと思う。とにかく、奇跡的なくらい素晴らしすぎる作品だったのだ。
映画のクライマックス。主人公が死んでいく友達から掛けられる言葉。
あれから40年以上が経った現在。今でも街のどこか薄暗い片隅で、こうした青春の美学がひっそりと囁かれていることを心から願って。
文/中野充浩
※2005年には、未公開シーンなどが追加・再編集された114分のディレクターズ・カット版が公開された。こちらは2枚組バージョンに収録されている。
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