デトロイト・ロック・シティ〜KISSのコンサートが地獄への片道切符だった頃
『デトロイト・ロック・シティ』(Detroit Rock City/1999年)
2019年12月、「End Of The Road World Tour」の一環で、キッス最後の来日ツアーが実現した。1977年に最初の来日公演を行って以来、13回目。このラストツアーは集大成的なショウだったので、参加できたファンはラッキーだと思う(*2022年11月末、1日だけの来日公演が実施)。
キッスといえば、まさにロックンロール・サーカスとでもいうべき、計算し尽くされたステージパフォーマンスが有名。派手なメイクや衣装で装ったメンバーたちが動き回り(しかも時には火を放ち)、完璧な演奏をしながらファンを長時間楽しませてくれる姿は、はっきり言って驚異的。
「キッスアーミー」と呼ばれる熱狂的なファンは、レコードやCD、DVDや書籍はもちろんのこと、キャラクターグッズの収集にも余念がない。
1970年代前半、キッスを自腹の金で売り込んでデビューさせた、マネージャーのウィリアム・オークウェンは、自らの名前でバンド名や楽曲、メーキャップなどの著作権を次々と登録し、25%の売り上げを懐に収め続けたらしいが、それだけこのバンドに可能性を感じていたのだろう。
そんなキッスの最初の絶頂期と言われるのが、1978年。メンバーもキッスアーミーの年齢もまだ若かった頃。彼らを有名にした地、デトロイトのコボホールでのコンサートをクライマックスに描いた映画がある。『デトロイト・ロック・シティ』(Detroit Rock City/1999年)だ。
ジーン・シモンズ、ポール・スタンレー、エース・フレーリー、ピーター・クリスのオリジナルメンバーで活動していたキッスは、1978年に初のベスト盤『Double Platinum』をリリース。各メンバーのソロアルバムも発売され、前年の『Love Gun』はバンド最高の売り上げを記録。全米ツアーも盛況を続けていた頃。
中西部のとある町。ホーク、ジャム、トリップ、レックスの高校生4人組は、キッスのコピーバンドを結成し、明日に迫ったデトロイトでのキッスのコンサートに行くことを生きがいにしている。
しかし、キッスが悪魔の使者以外の何者でもなく、コンサートは地獄への片道切符であると決めつけるジャムの厳格な母親が、あろうことかチケットを燃やしてしまう。
そこで4人は、あらゆる悪知恵を使ってチケットを入手しようとするが、クセの強い連中との災難続きでなかなか事はうまく運ばない。そこにティーンロマンスや少年たちの友情が重なりながら、ストーリーが展開していく。
自らキッスファンでもあった監督は言う。「ロックンロールのことしか考えられなかった自分の青春のすべてが、この作品に凝縮されている。音楽だけでなく、当時の情熱、喜び、興奮、その時代にしかできない戦いなどを思い出す」
映画の撮影は、実際にはカナダのトロントで行われ、当時のデトロイトに見えるようにセットが組まれた。エキストラには1970年代の衣装を着てくるように告知して、コンサートシーンが撮影された。ジーン・シモンズはファンたちの協力に胸が熱くなったという。
1978年といえばディスコブーム全盛期でもあり、ディスコ好きなクラスメイトとバトルするシーンが面白い。「お前らのキッスもそのうちディスコになるぜ」「キッスがそんなヤワなことするわけないだろ」。翌年にキッスは「I Was Made for Lovin’ You」でディスコ路線に走るので、思わずニヤついてしまう。
なお、映画の全編には、「Love Gun」「Rock and Roll All Nite」「Beth」「Detroit Rock City」といったお馴染みのキッスのナンバーのほか、AC/DC、T.レックス、シン・リジィ、UFO、ブラック・サバス、ランナウェイズ、ラモーンズ、チープ・トリック、ELO、サンタナ、スティクス、ヴァン・ヘイレンなどの曲が流れまくる。
これだけでも『デトロイト・ロック・シティ』のロックに対する、愛と本気ぶりが分かるはずだ。
映画を観終わってチラシのイラストを見ていると、1979年にラモーンズが出演した映画『ロックンロール・ハイスクール』を思い出した。内容もなんとなく似ている……さあ、まもなくキッスのステージが開幕する!!
文/中野充浩
参考/『デトロイト・ロック・シティ』パンフレット
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