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チャイナタウン〜ジャック・ニコルソンのために描かれたフィルム・ノワールの名作

『チャイナタウン』(Chinatown/1974年)

「この映画は、チャンドラーの原作を映画化したどの作品よりもチャンドラー的かもしれない」(ロマン・ポランスキー)

『チャイナタウン』パンフレットより

これまで『さらば愛しき女よ』や『ロング・グッドバイ』といったレイモンド・チャンドラー原作映画を取り上げてきたが、今回紹介する『チャイナタウン』(Chinatown/1974年)を改めて観てみると、その世界観にまったく違和感はない。それどころかロマン・ポランスキー監督が言うように、“そのもの”の作品のように感じる。

ことの起こりは1971年。プロデューサーのロバート・エヴァンスが、気鋭の脚本家ロバート・タウンに『華麗なるギャツビー』の脚本を依頼するところから始まる。

ギャラは当時としては破格の17万5千ドル。だが、タウンはこの話をあっさりと断った。その代わり、自分のオリジナル脚本である『チャイナタウン』を持ち掛けることにした。受け取るのは2万5千ドルになったが、それでも良かった。

チャイナタウンの管轄だった警察官がいてね。「あそこは怠慢が一番」だと言うんだ。どういう意味だって尋ねたら、中国マフィアの世界では言葉や人間関係が複雑だから、警察が犯罪を防止しているつもりでも、逆に犯罪の手助けをしてしまうことがあるって。「あまり首を突っ込みすぎずに怠慢でいるのが一番なのさ」と。

『チャイナタウン』パンフレットより

そのことが頭から離れなかったタウンは、チャンドラーの作品をすべて読んで執筆を開始。『ファイブ・イージー・ピーセス』『さらば冬のかもめ』での主演で、俳優として成長著しかった親友ジャック・ニコルソンを想定し、気性、仕草、言葉遣いを描いた。

ポランスキーはニコルソンからの電話で、『チャイナタウン』の監督を要請された。脚本に恵まれず次回作に悩んでいたポランスキーは、この話に飛びついた。

ヨーロッパ人の彼は、数年前に妻のシャロン・テートを悲惨な事件で失ったということもあり、アメリカ行きを葛藤したそうだが、本作を撮るためにハリウッドに戻る決意をした。

日本公開時の映画チラシ

ヒロインには当初ジェーン・フォンダが有力だったが、ポランスキーはフェイ・ダナウェイを推薦。傑作にするためには、彼女の存在が必要不可欠と考えたようだ。

また、結末を巡ってはエヴァンスやタウンと対立。二人はハッピーエンドを望んだが、監督はその反対路線で押し切った。

予定調和じゃ面白くない。それに悪玉を演じたのがあの名監督ジョン・ヒューストンだからこそ、そうすべきだと直感したのだろう。結果的に『チャイナタウン』はフィルム・ノワールの名作に昇華した。

(以下、ストーリー含む)

1930年代、ロサンゼルス。利権絡みや供給問題によって、LAは深刻な水不足に覆われている。

そんなある日、私立探偵のジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)のもとに、モーレイ夫人から依頼が舞い込む。ギテスは金になるので、彼女の夫の浮気調査を進めることにした。

夫のモーレイは水力発電の施設部長であり、ロサンゼルスの地盤の弱さを理由に、ダム建設計画に反対している真面目な男だった。しかし、夫人の言うように若い女と時々一緒にいることは確かで、ギテスは証拠写真を撮影する。後日、モーレイのゴシップは新聞沙汰になった。

事務所に戻ったギテスを待っていたのは、名誉毀損で告訴するというイヴリン(フェイ・ダナウェイ)だった。彼女こそモーレイ夫人だったのだ。

すると、最初の女は何者なのだろう。誰に頼まれたのか。ギテスはガセネタを掴ませた奴を見つけ出すことにし、事情を知った夫人は告訴を取り下げた。

そんな時、貯水池の近くでモーレイの死体があがった。溺死したらしい。なのに、肺には海水が溜まっていた。謎が深まるばかりだ。おまけに嗅ぎ回っていたギテスは、二人組の男からナイフで鼻を切りつけられる。もう後には引けない。

モーレイの部下やイヴリンの周辺を調べているうちに、町の有力者の存在が浮かび上がってきた。ノア・クロス(ジョン・ヒューストン)、イヴリンの父親である。

クロスはロス郊外の土地を買い漁っている。モーレイがダム建設に賛成さえすれば、この地の価格が高騰して何十億もの金がクロスに入る。モーレイは溺死なんかじゃない。正義感の強い彼は、殺されたのだ。

しかも、イヴリンとクロスの間には禁断の過去があった……「この街は怠慢だ」と呟くギテスの姿が、強い印象を残す。

文/中野充浩

参考/『チャイナタウン』パンフレット

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