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パルプ・フィクション〜世界のポップカルチャーの記号になったタランティーノ

『パルプ・フィクション』(Pulp Fiction/1994年)

デビュー作『レザボア・ドッグス』(1992)や脚本作品『トゥルー・ロマンス』(1993)で、「新しい才能の登場」として騒がれていたクエンティン・タランティーノ。

世界的に脚光を浴びることになったのが、カンヌ映画祭を制した『パルプ・フィクション』(Pulp Fiction/1994年)だった。

一つの映画の中に3つの物語を入れて、犯罪映画のアンソロジーを作ろうと思ったんだ。1930〜40年代に流行った大衆犯罪小説(パルプ・フィクション)からヒントを得てね。そういった雑誌では、一つの話の主人公が別の話では脇役として登場していたりする。こういう手法って映画じゃまずないから面白いと思った。(クエンティン・タランティーノ)

『パルプ・フィクション』パンフレットより

映画・音楽・コミックなど膨大なポップカルチャーを吸収分析する“オタク/コレクター気質”と、それを消化して自己表現へと変えていく“作家性”を併せ持つタランティーノ。

そんな彼が次に目をつけたのが、安価で質の低い紙に印刷された三文小説が並ぶ雑誌の総称「パルプ・フィクション」。密かに大作家への登竜門としても機能した、B級メディアへのオマージュだ。

そのうち時間の流れや人間関係も一回バラバラにして再構築するってこともしたくなった。観客はいきなり物語の中に投げ込まれて、最初は展開が見えないんだけど、だんだんとその全貌がわかってくるわけさ。それってスリリングじゃない!?
(クエンティン・タランティーノ)

『パルプ・フィクション』パンフレットより

ジョン・トラボルタ、ブルース・ウィリス、ユマ・サーマン、サミュエル・L・ジャクソン、ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス、エリック・ストルツ、ロザンナ・アークエット、クリストファー・ウォーケンなど、映画好きならたまらない“癖”のある俳優たちがキャスティング。

こうした面々が一つの作品でいったいどう絡み合うのか。観る前から思わずワクワクしてしまうのも、タランティーノの“計算済み”だろう。

日本公開時の映画チラシ

好き嫌いがはっきりと分かれることでも知られるタランティーノ作品だが、小道具や台詞への“拘り”を心地よくとらえられるかどうかが、その境界線のようにも思える。

本作にもハンバーガーやコーヒーの件をはじめ、オールディーズが鳴り響く1950年代風レストラン、発砲前の朗読儀式、ドラッグ過剰摂取の対処マニュアル、日本刀での復讐劇、トイレでのパルプマガジン読書、レトロなツイストダンス、形見の時計のエピソード、サーフ・ミュージックといったあたりが強い印象を残す。

それらを楽しめ人には、『パルプ・フィクション』は飽きないオモチャのような魅力を放つ。

物語は、ギャングのボスの若くて美しい妻(ユマ・サーマン)の食事相手をしなければならなくなった、手下のビンセント(ジョン・トラボルタ)と相棒のジュールス(サミュエル・L.ジャクソン)、同様にギャングのボスから、八百長試合を強いられたボクサーのブッチ(ブルース・ウィリス)を軸に進んでいく。

そして、癖のある面々があらゆる場面で関わってくる。コメントにもあるように観る者はゆっくりとゆっくりと引き込まれていく。

この役をきっかけに、低迷期を抜け出して第一線に復帰したジョン・トラボルタは言う。

才能のある監督である以前に、優秀な脚本家なんだ。彼の描く脚本には、役者なら誰でもその映画に出たいと思うような独特の作風がある。独特の声と言ってもいい。良い脚本と良い監督。役者にとっては絶対に外せない条件だ。

今までは僕もそのことが分からずに失敗したことがあった。クエンティンとの仕事は最高の形でその条件が揃っていた。だから僕も冒険ができたのさ。

『パルプ・フィクション』パンフレットより

なお、サウンドトラックも“癖”が満載だが、中でもリンク・レイの1958年のヒット「Rumble」が印象的。ギターによるインストナンバーにも関わらず、その過激な音とタイトルのせいか、犯罪を誘発するという理由で、放送禁止になったR&R時代屈指の名曲だ。

文/中野充浩

参考/『パルプ・フィクション』パンフレット

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