ジャージー・ボーイズ〜音楽への愛に満ち溢れた「君の瞳に恋してる」
『ジャージー・ボーイズ』(JERSEY BOYS/2014年)
「絆」や「友情」といった言葉をよく耳にする。しかし口にするのは簡単で、実際に深刻なトラブルに見舞われた時、そんな台詞を交わした当人たちに亀裂が生じることは珍しくない。
大人の人生なんてそんなものだと割り切りながらも、心のどこかではあの美学を忘れられない。幼い頃からそんな世界を叩き込まれた人ほど、特に遭遇する出来事だと思う。
『ジャージー・ボーイズ』(JERSEY BOYS/2014年)は、そんな忘れかけたスピリットを、そっと観る者の胸に音楽と共に届けてくれる素晴らしい作品だ。
ロック/ポップ史にその名を永遠に残す、フォー・シーズンズの実話を基に描いたブロードウェイのロングラン・ミュージカルの映画化であり、クリント・イーストウッドが監督している。
物語の最初の舞台となるのは、ニュージャージー州の貧しいエリア。主人公はフランキー・カステルチオ(ジョン・ロイド・ヤング)という少年。
彼にはトミー・デヴィート(ビンセント・ピアッツァ)やニック・マッシ(マイケル・ロメンダ)という兄貴分の仲間がいる。彼らはバンドを組んでいて、独特のファルセットな歌声を持つフランキーに、音楽や歌い方を教え込んでいた。
しかし、一方でイタリア系移民の性なのだろうか。マフィアのボス(クリストファー・ウォーケン)とも関係があり、犯罪に手を染めたり刑務所に入ったりして、フランキーは面食らうだけだった。彼らに爽やかな歌をイメージする人も多いが、その生まれた背景は凄まじい。
その後、フランキーがヴァリと改名したり、当時無名役者だったジョー・ペシ(今や名優!)という友人から、新進気鋭のソングライターであるボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)を紹介されてバンドは4人組となった。
フォー・シーズンズの名は、トミーの過去の悪事が原因でオーディションに落とされた、ボウリング場の名前から名付けられた。
NYのブリル・ビルディングで、プロデューサーのボブ・クリューとの再会をきっかけに本格的にデビューする4人。
しばらくはアイドル歌手たちのバックコーラスの仕事を続けていたが、ボブが書いた「Sherry」でいきなりナンバーワン・ヒットを飛ばしてスターとなる。「Big Girls Don’t Cry」や「Walk Like A Man」も続けて1位になった。すべてが順調に思えた。
長期間のツアー暮らしの影響で、フランキーの夫婦生活や子供たちとの関係に暗雲が立ち込める中、あるTV番組の本番収録直前に、トミーが莫大な借金を作って取り立て屋に迫られている事実が発覚する。バンドの経理をギャンブル浪費癖のあるトミーが握っていたことが原因だった。
すぐさまギャングのボスに仲裁に入ってもらうが、フランキーはトミーが作った借金を自分たちが返済することを決意。その理由は、まだ若かった自分に音楽の素晴らしさを教えてくれたニュージャージーでの日々という想い出があるからだった。
フランキーとボブは、それからの日々をステージや曲作りに勤しむことになる……。
名曲を多数持つフォー・シーズンズだけに、名場面は数知れない。やはり邦題「君の瞳に恋してる」として余りにも有名な「Can’t Take My Eyes Off You」(後にディスコソングとしてカバー)の誕生と初披露のシーンはとても興味深い。
また、借金完済後に、今度はフランキーの娘が薬物過剰摂取で亡くなるという悲劇に、思わず涙してしまう人も多いだろう。父は娘の夢を応援していたのだから。静かに聴こえた「My Eyes Adored You」が心に残る。
映画のエンディングロールでは、映画のキャストではなく、フォー・シーズンズの「Rag Doll」が流されるのもイーストウッドの粋な計らいだ。
夢があり、成功があり、トラブルがあり、悲しみがあり、再生がある。この作品には絆と友情、そして何よりも音楽への愛が満ち溢れている。
余談だが、この映画を観終わった後、二つの青春映画を鮮明に思い出した。
『ディア・ハンター』は、クリストファー・ウォーケンが出演していたベトナム戦争絡みの名作で、フランキー・ヴァリの「君の瞳に恋してる」が効果的に使われていた。
それから1960年代前半のNYのイタリア系の若者たちを主役にした『ワンダラーズ』のオープニングは、フォー・シーズンズの「Walk Like A Man」が高らかに鳴り響いていた。
文/中野充浩
●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから
この記事を楽しんでいただけましたか?
もしよろしければ、下記よりご支援(投げ銭)お願いします!
あなたのサポートが新しい執筆につながります。