ロックンロール・ハイスクール〜最初は『ディスコ高校』にされたラモーンズ出演作
『ロックンロール・ハイスクール』(Rock ‘n’ Roll High School/1979年)
アラン・アーカッシュは、初めての監督作品となる映画のタイトルを、上司でありプロデューサーでもあるロジャー・コーマンから聞いて呆れ返った。そして強気で反対した。
ロジャーは、ちょうどディスコが大ブームだったので若者に受けると思っていたが、部下の様子を見て考え直すことを決意。それは滅多にない例外的なことだったが、タイトルは『ロックンロール・ハイスクール』(Rock ‘n’ Roll High School/1979年)へと無事に変更された。
ロジャー・コーマン。アメリカ映画界で、「B級映画」「低予算映画」「カルト映画」の帝王として君臨する伝説的映画人。監督としてだけでなく、プロデューサーとしても400作品以上を手がけている。
ハリウッドシステムの真逆を行くような、独立精神は、多くのキャリアのない若者たちにチャンスや経験を与えることになった。別に莫大な予算をかけなくても、いい映画は撮れることを教えたのだ。
この“ロジャー映画学校”では、フランシス・フォード・コッポラ、スティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシ、ピーター・ボグダノヴィッチといった監督や、デニス・ホッパー、ピーター・フォンダ、ジャック・ニコルソン、ロバート・デ・ニーロらの俳優も多くを学んだという。アラン・アーカッシュもそうした若者の一人だった。
アランは、映画に出演させるバンドを探さなければならなかった。レコード会社からは、DEVOやヴァン・ヘイレンを推薦されたらしいが、その時、スタッフから「ニューヨークのラモーンズがいいんじゃない!?」と言われてピンと来た。
1968〜1971年頃に、伝説のライヴハウスであるフィルモア・イーストで働いていたアランは、ジミ・ヘンドリックスやドアーズやザ・フーのステージを生で体験していた。
「ポップスをチェーンソーで演奏してるみたい」なラモーンズには、ロックの持つ破壊力や神秘性や反逆精神を十分に感じたに違いない。それに楽曲使用を含めた出演料をたったの2.5万ドルで受諾してくれたのだから。ロジャー・コーマンも反対するはずがなかった(ちなみにチープ・トリックという話もあったらしい)。
こうしてラモーンズが出演する学園コメディ映画が撮影されることになったが、メンバーのジョーイ、ジョニー、ディー・ディー、マーキーらの演技は酷かったらしく(当たり前だ)、台詞は大幅にカットされた。
しかし、そのぶん演奏シーンが活かされて、今ではロックバンドが登場する映画の中でも最も人気の高いカルト作となった。
主演はP.J.ソールズ。ラモーンズ大好きなR&R少女を演じている。衣装はすべて自前というのだから、ここでもロジャー・コーマンの精神が貫かれている(余談だが、ソールズがオーディションに行くと、いつもロザンナ・アークエットやダリル・ハンナとかぶっていたそうだ)。
また、堅物の校長役の女優は元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのダンサーだったとか、撮影スタッフの中にはジェームズ・キャメロンもいて、俳優たちにコーヒーを配っていたとか、ネタにも尽きない。
ストーリーは、ロックンロールで盛り上がる高校に、ロック禁止と厳しい校則で改革に乗り出そうとする、手下2名を従えたクセの強い女校長が赴任してくるところから始まる。
一方、学園の人気者のリフ(P.J.ソールズ)は、大好きなラモーンズのために自作曲を書き、彼らのライヴでいつか手渡そうと目論んでいる。理系の眼鏡っ子ケイトとは親友で、彼女はアメフト部の優等生トムに恋心を抱いているが、実はトムはリフに夢中という状態。
そんな中、いよいよラモーンズの公演が始まる。それをきっかけに生徒たちVS女校長の闘いが始まろうとしていた……。
サウンドトラックも秀逸で、ラモーンズのタイトル曲のほか、チャック・ベリー、アリス・クーパーのハイスクールソング、トッド・ラングレンやニック・ロウ、ブライアン・イーノらの楽曲が並ぶ。
校庭でみんなが踊りだすオープニングシーンで大音量で流れているのはラモーンズの「シーナはパンクロッカー」だ。
文/中野充浩
参考/『ロックンロール・ハイスクール』DVD特典映像
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