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スクール・オブ・ロック〜レッド・ツェッペリンも楽曲使用を認めたROCKな映画

『スクール・オブ・ロック』(School of Rock/2003年)

TAP the POPの読者なら、気づいている人は多いと思う。「ロック」はもはや若い世代や反抗を象徴する言葉でも精神でもなくなったことを。

莫大な資産を築いた60代や70代(近年では80代)のビッグネームは毎年のように来日公演を行うし、40代や50代にとって「ロック」は、まだ追いかけるに値する夢が残された音楽でもある。

1950年代に生まれたロックンロールは、1960年代に「ロック」となって反体制文化としての黄金期を迎え、1970年代にはビッグセールスを量産する一大ビシネスとなる。

イギリスではその反動として、パンクが芽生えてDIY精神が広がっていく。そしてアメリカの1980年代は、MTVの影響でヴィジュアル志向の高いアーティストがメインストリームを形成していく。

1990年代に入ると、オルタナティヴという名の「ロック」の復権が起こる一方で、CDが爆発的に売れた。ネットカルチャーが浸透したゼロ年代になると、音楽の体験方法自体が次第に一新され、やがて「ロック」ものみ込まれていく……。

かなり乱暴なまとめ方だが、「ロック」の見え方・距離感としてはこんなところかもしれない。

1990年代のグランジやブリットポップあたりから、実は「ロック」の動向がほとんど分からなくなっている(分かりたくない)という人や、オールドスクールやネイティヴ・タンまでは「ロック」を感じだけど、90年代のギャングスタラップ以降のヒップホップにはまったくついていけずに完全に興味を失くしてしまったという人にとって、「ロック」とは今も特別な世界観であることは事実だ。

だから飲食店の席で、ゆとり/さとり世代、もしくはZ世代の部下に、「ロック」の輝かしい時代や魅力を伝授したくなるのも頷ける。

ゼロ年代以降の若者にとって、「ロック」は以前のような絶対的な存在ではないことを知りながら。経緯さえ知らない彼らの心に響くはずもなく、どこか虚しい気分にも覆われる。

でも、もし子供たちに伝えることができたなら話はちょっと違ってくるだろう。なぜなら子供たちにとって、「ロック」は反体制でも何でもなく、“耳から入る刺激のある新しい遊び”のようなもの。喜んで学んでくれるはずだ。

『スクール・オブ・ロック』(School of Rock/2003年)は、そんな「もしもロックが」を実現してくれた、音楽愛に溢れた良質なエンターテインメント映画だった。

日本公開時の映画チラシ

ロックバンドをクビになったデューイ(ジャック・ブラック)は、「ロック」の力を信じて今も反体制な生き方を貫く無職の男。

居候先の友人ネッド(マイク・ホワイト)はかつてのバンド仲間だが、今では教員の職に就きながら恋人と暮らしている。こんな共同生活は彼女に耐えれるはずがなく、家賃滞納を理由にデューイを追い出しにかかる。

そんなある日、ネッドたちの留守中に代用教員の依頼電話が鳴る。デューイは金欲しさにネッドになりすまして、名門私立小学校の5年生の臨時担任として潜り込むことに成功。

家賃稼ぎのためのバンド・バトルに出場するために、デューイは堅苦しいカリキュラムに囚われた子供たちとロックバンドを結成することを決意。その日から「ロック」を教える日々が始まるのだが……。

監督はリチャード・リンクレイターで、有名な黒板のロック相関図は彼が描いた。脚本はネッド役のマイク・ホワイトで、ジャック・ブラックに主演させるためにこの物語を綴った。そのジャックは、テネイシャスDというバンドでも活動する俳優。本作は当たり役となった。

監督自ら描いたというロックの相関図。90年代以降がないというのも意味深。(映画『スクール・オブ・ロック』より)

また、子供たちはオーディションやスカウトで見つけてきたそうだが、「ロック」のレッスンを数ヶ月間のミュージック・キャンプという形で教えたのは、ソニック・ユースや親日家でも知られるジム・オルーク。映画のエンド・クレジットでは「ミュージック・グル(音楽の師)」としてその名が流れる。

本作はロックファンならニヤニヤしてしまうシーンが満載。堅物の女校長が、実はスティーヴィー・ニックスのファンで、酒が入ると物真似をしてしまうとか、デューイが子供たちに宿題として、それぞれの個性に合わせたCDを配る(ブロンディ、ジミ・ヘンドリックス、ピンク・フロイド、ラッシュ、イエス)とか、入門編としてブラック・サバスやディープ・パープルのリフを弾かせるとか、ロック教師としては一切ブレないところがたまらない。最大の見どころは、AC/DCもどきの音で子供たちとバンド・バトルに出場するシーンだ。

映画ではAC/DC、ザ・フー、クリーム、ドアーズ、ラモーンズ、キッス、スティーヴィー・ニックス、ザ・クラッシュ、メタリカなどの楽曲も聴こえてくるが、中でもレッド・ツェッペリンの「移民の歌」(Immigrant Song)が使われたのは話題になった。

というのも、ツェッペリンはオリジナル音源の使用に関して特に厳しいことでも有名。そこで監督とジャックは、秘策としてジミー・ペイジにビデオ・レターを送った。そして無事に使用許可がおりたのだという。

史上最高のロックバンド、レッド・ツェッペリンにお願いがあるんだ。「移民の歌」をこの映画で使わせて。じゃなきゃこの映画は最悪なことになってしまう。どうか僕たちに大きな愛を!

『スクール・オブ・ロック』DVD特典映像、パンフレットより

文/中野充浩

参考/『スクール・オブ・ロック』DVD特典映像、パンフレット

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