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マイ・プライベート・アイダホ〜23歳で逝ったリバー・フェニックスのロードムービー

『マイ・プライベート・アイダホ』(MY OWN PRIVATE IDAHO/1991年)

1993年10月末、映画界で最も期待されていた若手俳優が、ドラッグの過剰摂取による心不全でハリウッドで亡くなった。その名はリバー・フェニックス。

1986年の『スタンド・バイ・ミー』で注目され、1988年の『旅立ちの時』では17歳でアカデミー助演男優賞にノミネート。その後は、決して大ヒット作ではないものの良質な作品に出演し続け、これからと言う矢先の悲劇だった。

まだ23歳だったスターのあまりにも早すぎる死は、世界中の若者たちに衝撃を与えた。リバーにはミュージシャンとしての一面もあったので、音楽ファンにも受け入れられていたヒップな役者だった。

そんなリバーの代表作と言われるのが、『マイ・プライベート・アイダホ』(MY OWN PRIVATE IDAHO/1991年)だ。

ヒッピーの両親に育てられ、幼い頃から各地を貧しく放浪する人生経験を積んでいたリバーにとって、この作品に漂う哀切なムードはすぐに心の風景として描けたに違いない。

そして実際に、リバーは素晴らしい演技をした。それは1950年代にジェームズ・ディーンが『エデンの東』で演じた孤独な魂の彷徨いを思い出させた。

男娼という役を演じることには、当初リバーは抵抗があったという。しかし、『ドラッグストア・カウボーイ』を撮っていた監督のガス・ヴァン・サントが、決して麻薬やホモセクシャルをセンセーショナルに扱うことはなく、“ただそこに生きている人間”として淡々と描くことを知って共感した。

また、仲が良かったキアヌ・リーブスとの共演も引き受けた要因のようだ。映画には、リバーの最期を看取った親友のレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーも出演している。

二人はコインの表裏のように違う。リバーはワイルドに即興に近い演技をするし、キアヌはリハーサルの演技をより洗練させる。それでもトーンは揃ってた……この映画では、家は家族や愛、道路は人生という旅、地平線は未来を象徴しているんだ。(ガス・ヴァン・サント)

『マイ・プライベート・アイダホ』パンフレットより
日本公開時の映画チラシ

(以下、ストーリー含む)

ナルコレプシー(発作性睡眠)
発作的に意識をなくして深い眠りに襲われる病気。心のストレスが引き金となる。

物語はアイダホ、シアトル、ポートランド、ローマなどを舞台に綴られていく。

マイク(リバー・フェニックス)は、男娼として身体を売りながら、日銭を稼ぐ日々を送っている。ナルコレプシーによって眠りに落ちたマイクが見る夢は、何もないアイダホの田園風景に建つ小さな家や、そこにいる「心配しないで。すべてうまくいくわ」と言う母親の姿。

マイクには幼少時に母親に捨てられ、父親さえ分からない過去があった。

スコット(キアヌ・リーブス)も、マイク同様の生活をしている。彼は市長の息子であり、見せかけの環境に反抗して飛び出した経緯があるが、21歳の誕生日に突然まともになって、病に冒されている父親の期待に応えようと人知れず心に誓う。

スコットや仲間たちには、ボブ(ウィリアム・リチャート)という盗みで暮らしている父親/ボスのような存在がいて、ボブは近いうちに莫大な財産が転がり込むスコットを自分たちの希望と見なしていた。

ある日、マイクの母親探しの旅に、盗んだバイクで付き合うスコット。二人はマイクの故郷アイダホへ向かう。

そこでマイクの兄(ジェームズ・ルッソ)と会うが、実は父親が兄であるという真実にマイクは混乱してしまう。二人は母親が働いているというホテルへ移動した。

だが、母親はいない。イタリアへ移住したと知らされる。ドイツ人のハンス(ウド・キアー)にバイクと身体を売った金で、今度はローマへ移動する二人。

しかし、またしても母親の姿はなく、代わりにカルメラ(チアラ・キッセリ)という美しい女の子が二人を出迎える。そしてスコットは彼女と恋に落ち、マイクは置き去りにされる。

帰国して、元の救いようのない生活に戻ったマイク。その頃、スコットは高級なスーツに身を包み、レストランでカルメラや側近を連れて、父親の遺志を受け継いでいた。

かつて父親のように世話をしてくれたボブに対してでさえ、「僕は変わった。もう教わることはない。俺に近づかないでくれ」と言い放つ。絶望したボブは自殺する。

スコットの父親の葬儀の近くで、ボブの弔いを行うマイクたち。目が合うマイクとスコットだったが、もう言葉を交わすことはなかった……。

アイダホの路上では、途方に暮れてナルコレプシーで倒れるマイクの姿。晴れた日のアイダホの空には、天使たちが見えた。

音楽の選曲や使い方も秀逸で、オープニングでは、ペダルスティールの音とアイダホの牧歌的な風景が溶け合って、エディ・アーノルドのヨーデル歌唱「Cattle Call」が聴こえてくるのが印象的。こんなクールな始まり方をする映画なんてあるだろうか? エンディングでは、ポーグスの「The Old Main Drag」で閉じられる。

River Phoenix 1970.8.23-1993.10.31

文/中野充浩

参考/『マイ・プライベート・アイダホ』パンフレット

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