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スタンド・バイ・ミー〜少年時代のイノセンスと友情を描いた心からの名作

『スタンド・バイ・ミー』(STAND BY ME/1986年)

子供の頃の想い出を一つの物語にまとめられないかと、ずっと考えていた。そこには愉快な話もたくさんあるけど、悲しい出来事もある。一緒に過ごした仲間たちは目的もなく、手探りで生きていた。(スティーヴン・キング)

『スタンド・バイ・ミー』DVD特典映像より

モダンホラー小説家であり、ベストセラー作家でもあるスティーヴン・キングは、自らの短編集用の1本にそんな構想を立てていた。そして、目的を持たせることを思いつき、少年たちが線路づたいに死体を探すアイデアが生まれたという。

この少年らしい冒険を経験した人はいると思う。どこまでも延びている電車の線路は、未知の遠い世界へ繋がっているように思えて、子供にとっては好奇心だった。ただそこを歩きたいのだ。

このスティーヴン・キングのホラーとは縁のない短編「The Body」を、『スタンド・バイ・ミー』(STAND BY ME/1986年)として映画化したのが、俳優/監督のロブ・ライナーだった。

ロブは自分自身の子供時代の想い出を重ねながら、この物語に新しい命を吹き込むことに成功した。

名優リチャード・ドレイファスとは15歳の頃からの親友関係だったことから、映画出演をオファー。リチャードは友人からの依頼という理由だけで快諾した。

結果、リチャードのナレーションは映画にドラマチックな心情を与え、味わい深い余韻を残すことになった。

日本公開時の映画チラシ

そして、後にハリウッドで最も将来を有望されることになる、リバー・フェニックスもキャスティングされた(*ちなみにはホアキン・フェニックスは兄弟)。

ロブは、リバーに他の3人の少年たちと2週間の合宿を共にすることを提案。演技の指導だけでなく、見知らぬ者同士を仲良くさせるためのコミュニケーションが一番の目的だった。

なお、映画の最後にはリバーが去って消えて行くシーンがあるが、リバーが若くして亡くなったことから、今ではとても意味深なカットとして語られることが多い。

そんなリバー・フェニックスの非凡さを物語るエピソードがある。

映画の中で、リバー演じるクリスという貧しい家庭に育つ少年が、冒険の途中の夜に親友の少年だけに告白するシーン。給食費を盗んだ犯人にされた挙げ句、実はその金で教師が自分の服を買っていたことを知って泣き崩れるところ。

リバーは最初はこのシーンに感情がなかなか入らなかった。そこで俳優の気持ちが分かるロブは、「それが何かを私に話す必要はないけど、大人たちに裏切られたことを思い出して芝居するんだ」とアドバイス。

すると、次のテイクでリバーの演技は完璧になった。彼は本気で辛い出来事を思い出したので、立ち直るのにしばらく時間が掛かったという。

主題歌は、1961年にリリースされて大ヒットしたベン・E・キングの同名曲「Stand by Me」で、本作の公開を機に全米9位のリバイバル・ヒットを記録。

当時、日本でも大変な話題になった歌だが、ベン・E・キングは2015年4月30日に76歳で亡くなった。

夜の闇が辺りを覆って
月明かりしかなくたって
僕は怖くない

見上げる空が落ちてきて
山が崩れて海に沈んでも
僕は泣かないよ

君がそばにいてくれるなら
いつもそばにいておくれ

ベン・E・キング「Stand by Me」より

(以下、ストーリー含む)

物語は、作家として成功して妻子ある家庭を持つゴーディ(リチャード・ドレイファス)が、新聞記事で少年時代の親友クリスの死を知るところから始まる。そしてゴーディはあの頃を思い出す。初めて死体を見た1959年の暑い夏の日を……。

オレゴン州の小さな田舎町。12歳のゴーディは、その日も仲間たちとポーカーと煙草に明け暮れていた。

「死体を見たくないか?」の一言が彼らを行動に向かわせる。3日前にブルーベリー摘みに出掛けた少年が汽車に跳ねられて死んだというのだ。警察やマスコミはまだ死体を見つけていない。自分たちで探し出して、TVや新聞に載って英雄になろう。

ゴーディには、フットボール選手として将来を有望された兄がいたが、4ヶ月前に亡くなった。以来、両親は放心状態で、タイプの違う自分は父親に嫌われていると思い込んで悩むゴーディ。親友のクリスは「お前は小説家になれる」と言ってくれるが、ゴーディは内気なままだった。

ゴーディ、クリス、テディ、バーンの4人は、線路づたいに歩き出す。クリスは万が一に備えて拳銃を持参。所持金も少ない中、少年たちは様々な困難を乗り越えながら、死体がある場所まで旅していく。

焚き火をしながら夜通し話をする4人。そのうちゴーディは作り話を聞かせてみんなを楽しませる。コヨーテの鳴き声に驚いて順番に見張りを立てることになると、クリスはゴーディに大人に裏切れた告白をして思わず涙する。「誰も俺のことを知らない土地へ行きたい」

その朝、一人目覚めたゴーディは野性の鹿と遭遇し、このことを仲間たちに話そうとするが、自分だけの秘密にする。そっと胸にしまっておくこともあるのだ。

4人は遂に死体を発見するが、自分たちの手柄にしようとする、同じ町の年上の不良エース(キーファー・サザーランド)たちの卑劣な邪魔が入る。エースがクリスをナイフで殺すと脅すと、亡き兄の形見(ヤンキースの野球帽)をエースに奪われたことのあるゴーディが手にした拳銃で助ける。

結局、死体は匿名で警察に連絡。誰も英雄になることはなかった。「こんなことじゃ駄目なんだよ」とゴーディは何かを悟る。クリスは「書く材料に困ったら、いつか俺たちのことを書けばいい」と言い残して去って行く。

それ以来、仲間たちと会うことはなくなったが、作家となった大人のゴーディには、このたった2日間の経験が特別なものであること、そして12歳のような仲間たちとは、もう二度と逢えないことを心に刻むのだった。

文/中野充浩

参考/『スタンド・バイ・ミー』パンフレット、DVD特典映像

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