ためになったねぇ〜・コード・ブレーカー
新型コロナウイルスに対するワクチンへ繋がるクリスパーキャス9の解明を巡る科学者達の物語。主人公は上記関連の祖としてノーベル賞を受賞するダウトナ女史を中心として、ライバル勢力や数多くの科学者との研究の襷を繋ぐ研究通史として面白く読める。
DNAではなくRNAに魅せられた人々の科学史という点で痛烈なライバル意識や倫理面での都合など人間剥き出しでコロナ禍まで突き進むのだが、上巻終わった時点では各陣営バチバチの訴訟闘争や論文掲載の駆け引きなど仲悪すぎやろとイノベーションの実態をリアルな証言を元に紡いでいく。
下巻はそんな緊張状態から一変してコロナウイルス到来ということで、オープンな協調体制が全世界で巻き起こり、終盤っぽいライバルとの共闘体制が胸熱展開必至となり物語を締めくくる。なんか一緒に研究してたけど袂を分かち退場して行った研究者なども全員本書を通じて和解のプロセスまでもって行き、凄まじくチャンチャンで終わるベタなストーリーテリングは王道だけどやっぱ心地よい。
外伝的に出てくるマッドサイエンティスト的なアメリカンな野郎生物学者もコロナ到来と共に自己に勝手にワクチン投与試し、それをライブで随時伝えるなど色んな勢力が一つの敵に向かって解決に導こうとする姿勢など多方面からの人類胸熱文学としてはかなり面白いです。
一応ワクチンという共通目的の為に一旦はこの分野の功績は人類史的に有意義であると結論付けられるが、遺伝子デザインという禁忌に近いテクノロジーという事で何処まで許容されるか?という倫理的な命題が残り続けるのがリアルタイム科学史として大きく作用している。
生まれてからの改変は感覚的にオッケーだけど、出生前の状態における改変は何処まで許容されるのかという線引きは道徳の教科書的である。不備的な因子を保管するのはアリというレベル感と、所謂強化的なデザイン思想に基づく新たなベイビーを産み出すのは如何なものかというラインは正直SFみたいで、現実に発生してる事象だと思うと時代の当事者としては何とも結論が付け難い。現に中国においては後者のような思想の元の赤ちゃんが誕生してしまっているそうで、そこら辺の線引きは何とも言えない苦悩する現実である。
インターネットに次ぐ革命として遺伝子のコード化による改変可能性はナウい革命とされているのも注目点でこれらの技術が自分の人生にどう関わってくるかを想像すると少しワクワクすると共に、新しい価値観を受け入れるか保守するかでなんか分断がじりじりと起きそうだよなあと想像してしまいます。コロナワクチンについてはそのアプローチが革新的で陰謀的な思想も蔓延ってますが、ちゃんと歴史を追えばかつてのワクチンより一歩進んだ根源的な作用として理解できます。
ここら辺にアレルギー起こす懸念がある人は読んで腑に落ちて欲しい。最新鋭の人類は結構ネクストレベルの技術を既に入手していて、一般市民はそれの恩恵を受けれる段階まで来てるのです。未来は結構明るいというか、平和に生き抜く分には凄い無意識でいれるんだなと実感。そして今作品の登場人物達が直下的に影響を受けた二重螺旋発見おじいちゃんがちょっとレイシズム的な思想の存在になって、なんとも言えなくなっている現状とかも知れて面白いです。