ドーキンス爺さん大立ち回り・さらば、神よ
「利己的な遺伝子」で有名な爺さんの神の存在への痛烈なこき下ろしと、科学ってやっぱ最強よな?と言う痛烈なメッセージ本。多分アメリカの敬虔なクリスチャン中高生辺りに読ませたら死ぬほど思想を反転させれそうなハードコアパンク的思想を持っている。原題は「outgrowing god a beginner‘s guide」(神からの卒業するためのビギナーズガイド」なので正にそんな層へ向けて書かれている。
我々日本人は唯一神論者は南蛮由来の少数派のため、そんなに深刻に認識していないが、欧米特にアメリカでは未だにキリスト教の原理的な思想に染まり切った人々が多いらしく、「そんな奴らアホ過ぎるやろ」と聖書の文献をいちいち引用して、難癖付けていく様が面白い。
完全に2部構成で前半は新訳・旧約問わず聖書の内容をサンプリングして、まずは聖書は歴史的に整合性のない事をひたすらに書き連ねる。ある種ひろゆき的な揚げ足取りっぽいドライブ感のあるこの文章は結構面白い。2020年出版なので論破ブームって世界同時多発的に起き始めていたのかもしれない。
そして歴史書としての聖書を魂の弾丸で仕留めた後は、道徳書としての聖書もボロカスに刺しまくる。なんと言うか「聖書の歴史はマジ」論者を斬った後に出てくる、「でも聖書は有用な事書いてるよね?」論者もついでに殴り倒す感覚はこの爺さんハードコアに無神論者なんだなと感服してしまう。
そして後半は科学サイドの素晴らしさをダーウィンの進化論を起点にさまざまな動物を例にとりこれもまた絶好調に進んでいく。前半のネガティブなドライブ感も心地よいが、後半のオタク的早口生物蘊蓄語りのスピード感も心地よい。(「もうちょっと詳しく説明したいけどもう一冊必要になるので端折ります」が凄まじく出現する。そして「YouTubeでこの動画観て!」のハシャギ感)
進化論は偉大な存在の指示に基づくトップダウン型ではなく、偶然の産物のボトムアップ型の累積の結果であるという今日では当たり前の事実なんだけど、改めて細かく語られると非常に納得の度合いが増すと共に、何故?が膨らんでいくが、その空白地帯を埋めていくのが科学の役割だと手を引いてくれる。空白を「神」で便宜的に理解するのは阿呆やでと我々に啓蒙してくれて背筋の伸びる思いになる。
迷信のメカニズムや、何故宗教を信じる人間が科学革命前後に大量に生き残ってきたなどもちゃんと生物の遺伝的作用に基づくものであるとキッチリ断言してくれるので、そこら辺のなんとなくの感覚をバチっとしたい人にはオススメです。