
愛國戰隊大日本 篇
岡田 斗司夫 氏あたりがいじり倒しておりますので、ご存知の方も多いかもしれませんが、Z世代の皆さんには新鮮なのではないでしょうか。1982年にDAICON FILM が制作した『愛國戰隊大日本』。
1982年にTOKON8というSF大会で実際に上映された作品です。1982年といえばソヴィエト社会主義共和国連邦、いわゆるソ連がまだまだ元気で、ゴルビーがペレストロイカを始める5年以上前、にも関わらず「ソ連」ではなく「ロシア」という表現を使用しているのが、逆に現代では臨場感を増しています。
粗筋もハチャメチャです。北辺から神國・日本を侵略しようと企む悪の組織「レッドベアー」は、日本人に対して洗脳五カ年計画を企画します。この洗脳五カ年計画とは、改造人間を日本に送り込んで、子供たちが学校で学ぶ教科書を真っ赤に塗りたくる、という作戦です。この計画のために、怪人「ミンスク仮面」やヒラ戦闘員「ハラショマン」が日本にやってきます。
これに対抗するために立ち上がったのが、アイ・カミカゼ、アイ・ハラキリ、アイ・スキヤキ、アイ・テンプラ、アイ・ゲイシャの5人の愛國戰隊大日本です。5人は、巨大空中母艦「大日本戰艦」と巨大合体ロボ「大日本絡操(ダイニッポン・ロボ)」を駆使して、アカの脅威から御國を守り抜くために戰います。
この5人が、それぞれ里見八犬伝みたいにボールを持っていてですね。その五つのボールに刻まれている文字が「仁・義・忠・信・智」なのであります。これは決して右翼集団が作った右翼っぽい特撮というわけではなくですね、ここまで右翼を上げまくっておいて、逆に貶しめているという高等技術です。儒学でいう五常は「仁・義・礼・智・信」なのですが、信を無くして忠を入れている、というのもなかなか洒落が効いています。
そしてこの5つのボールを合体させた「天誅ボール」が必殺技です。戦っているうちに段々と敵が強くなってですね、第23話で、なんと剣道の達人、アイ・ハラキリと普段は天ぷら屋で働いているアイ・テンプラは討ち死にしてしまいます。そこで補充されるのが、お刺身が大好きなアイ・オサシミと、元機動隊員で成田空港紛争で過激派を68人を殴り殺したという伝説を持つアイ・トツゲキです。
最終話では、メンバー内の紅一点、アイ・ゲイシャを除いた全員が、「大日本絡操(ダイニッポン・ロボ)」による神風特攻を仕掛け、勝利はするものの名誉の戦死を遂げます。一人生き残ったアイ・ゲイシャも日本人らしく自刃。つまり、全員、死んじゃいます。勝つけど。死んじゃうんだよね。これが戦争なんだよね。という、まあ、何と言いますか、これでもかというほどのパロディで日本を笑い飛ばしていくんですけれども、その後、真面目に
「こんな右翼的な作品を制作するなんてけしからん!」
と突っかかってくる左翼も纏めてこき下ろしてしまうことになります。どっちもつまんねえじゃねえかよ、お前ら、という80年代前半の若者たちの魂の叫びが聞こえてくる気がします。
ちなみに監督は赤井 孝美、特撮監督が庵野 秀明でして、このDAICON FILMが後にガイナックスへと進化しまして『王立宇宙軍 オネアミスの翼』や『新世紀エヴァンゲリオン』などの名作を世に出していくことになります。
(了) 2025 vol.053
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?