命のスープ~21章~
秋に毎年展示会を催していた。
最初は3人。
ロンとTちゃんとO氏。
回数を重ね、どんどん輪が広がり、最終的に何人になったんだっけ…
沖縄県内外からアーティストを集めた。
ロンはそのアート集団を率いるボスだった。
絵画、写真、折り紙アート、陶芸、書道、音楽…
ちなみに私は一番嫌いな科目が美術館や図画工作だった。
絵なんてとても見れたもんじゃない。
アーティストというものの存在自体に尊敬する。
私は自然と裏方にまわった。
ちなみに、アートチームの名前を検索し出てくる写真は私が撮影したものである。
私が発した言葉でみんなが笑ったところを撮った。
自然な笑顔になってくれてる。
裏方をやった甲斐があるというものだ。
ロンを間近で見て、アーティストという人種は不器用だと思った。
作品を生むのには、身を削る。
ロンは付け焼き刃と言ったらめちゃくちゃ怒られそうだが、展示会の期日が迫らないと筆を取らない。
筆を取ったら、睡眠やおろか、飲み食いを忘れ、描く。ひたすらに描く。
元々細い身体が20kgを切る。
しかし、身体は難病の身体。
時々、絵の具をパレットに出し、倒れた身体を直し、痰を取り…と助手が必要なのである。
これが夜通し行われる。
…付き合う方はたまったもんじゃない。
大変申し訳ないが、ロンのせいで忌野清志郎さん、長渕剛さんの曲が聞けなくなった。
よく長渕剛さんの地元鹿児島県桜島でオールナイトで行われたライブ音源を聴きながら、描いていた。
「太陽引っ張り出そうぜぇい!」
いや…夜は寝たい。
平日は仕事をして、土日はこれに付き合わされる。
彼が入浴中に自宅に帰り、仮眠をとる。
またロンの自宅に戻り、絵を描くのを手伝う。
仮眠が少しでも長ければ怒られた。
基本的に夜型なため、夜中に突然おつかいに行かされることもある。
まさに「こんな夜更けに」である。
ロンの場合、バナナではなく、カラムーチョとビールもしくは泡盛だが。
私はあまりカラムーチョが好きじゃない。
そして、非常に食事介助しにくい食べ物である。
ビールといえば…
前述でロンが気道に管を入れるときに声帯を傷つけたと言ったが、その際変形が強い彼の身体に管を通すことが至難の技だったようで、前歯2本が抜かれた。
ある時、前歯の差し歯が抜けた。
新しい歯ができるまで、恥ずかしいとマスクを付け過ごしていた。
ロンは声が出ないため、口話を読み取るのが常であるが、問題が起きた。
前歯がないと発音がまったくわからない。
全部空気が逃げるのだ。
コンビニに行き、商品を取ってと言うがどれかちっともわからない。
はあ?
思わず大声で聞く。
端から見ると、車いすのおっさんに勝手にキレてる姉ちゃんである。
マスクをずらさせ、もう一度発音させるが、なくした前歯を隠しながら話す。
はあ?
幾度となく繰り返し…
『一番絞り』を購入した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?